「離婚する際には、朱雀宮に後ろ盾立ってもらいましょうね」
「そこまでして貰えるんですか?」
「大切なことですよ。言っておきますが、宗家に了承も取らず、貴女に緋ノ宮を継がせないなど、何寝言を言ってるんだと、朱雀宮が怒るところですからね。朱雀宮に全ての権限はあり、火神などこちら側が書類に判を押せば、消える家に過ぎない。自身の立場を見誤っているのならば、この国のためにも、いつかは正さねば」
「はあ……」
正直、どうでもいい話だ。
取り潰しになろうと、朱音は困らないわけだし。
父が遺した緋ノ宮に関するものが、伯母達の手元にないことは確認済だ。どうでも良い。
朱音は基本、逆らわないようにしている。だから、彼女らは勘違いしているようだが、朱音は怒らなかったのではない。無駄だと思って諦めたのだ。
だから、もしもの場合も助けない。助ける言われがない。そもそも、身分ならば、朱音の方が生まれながらに上である。
伯母は家よりも恋を優先した。そして、火神という新たな分家まで作ったのだ。朱雀宮がそれを許可したにせよ、それは異例中の異例。
三大名家は基本、自身含めて、四家まで。
なので、五家ある朱雀宮は他の二家である橘と桔梗とのパワーバランスが崩れる危険性があり、常に国から監視されている。
今のところ、何も大きな問題になっていないのは、緋ノ宮が殆ど滅んでいる状態に近く、また、火神がそんなに有能な訳でも無く、緋桜や緋月がとても大人しい家だからである。
奇跡が重なり合って存在できているのに、変なことをしてお取り潰しになるならば、それを止める必要性を朱音は感じない。
「─貴女は心底、どうでも良さそうですね」
クスクスと笑われて、朱音は頷く。
「心底どうでも良いので。えっと……もうひとつ大事なことなんですけど、お名前を聞いても?」
「あっ、そうですね。失礼しました。お名前を聞くだけ聞いて、僕は名乗り忘れて……僕は橘千陽(タチバナ チハル)と申します。貴女の結婚相手の双子の兄は、橘千景(チカゲ)。よろしくお願いいたしますね」
「わかりました。千陽さん、で、よろしいですか?」
「千陽、でも、ハルでも、問題無いですよ。契約間限定とはいえ、貴女は僕の姉になりますし」
「千陽さんにします。違う宗家とはいえ、橘家の御次男を呼び捨てはちょっと……」
「ハハッ、わかりました」
「私には敬語なしで。朱音、でお願いします」
「わかった。宜しくね、朱音」
「はい、宜しくお願いします」
─そうして、朱音は契約結婚をすることになる。
神様の悪戯が入るのは、もう少し先。