でも、それもこれも全部、朱音の名前でやってくれてるので、今年で18歳…一応、名家に籍を置くものとして、婚約者を探す年齢だが、未だに候補すらいない。
伯母達が妨害しているものもあるだろうが、それ以上に向こうから遠慮されているだろうことは、想像に容易い。
「失礼とは存じますが、彼女と苗字が違うのは」
「あ、従姉妹だからです。亡き父と彼女の母が姉弟で……伯母が、絶対に父の跡は継がせないと」
「実の娘は貴女なのに?」
「最愛の弟を奪った私の母を恨んでいるようで……従姉妹の結婚相手に、緋ノ宮の全ては譲るのだと」
「変な話ですね」
「まぁ…でも、私はまだ子どもですから」
腹が立つ話だが、仕方がないのだ。
子どもだから、どうしても世間的な力がない。
18歳はまだ子どもで、それだけ無力なのだ。
「従姉妹さんの御年齢は……」
「今年で20だったと思います」
「そうですか」
まるで、尋問されているみたいだ。
名家の嫁となるには、必要なことなのか。
─別に答えることは問題ないんだけど。
「火神麗奈(ヒガミ レナ)……緋ノ宮は、朱雀宮(スザクノミヤ)の分家ですよね」
「そうですね。この国における、三大名家のひとつの朱雀宮の分家になります。緋ノ宮の分家が火神なので」
「貴女が緋ノ宮の当主となれば、彼女達は貴女の下になるということですね」
「……まぁ、はい」
気は進まない問いかけだが、素直に頷く。
嘘ではなかったからだ。
そもそも、父は朱音の将来の婿に家を継がせると言っていた。それを公言するな、とも。
朱音が自分から愛し、愛される相手と結婚した際に全てを譲るから、と。
緋ノ宮家は結婚という形で家を出た瞬間、緋ノ宮家にまつわる権限は全て失うらしい。
だから、その緋ノ宮の決まりに乗っ取るならば、伯母に遺された緋ノ宮のものなんて何一つないはず。
だが、父が遺した緋ノ宮に関する資料がどこにあるのか分からない以上、朱音にはどうすることも出来なかった。
父が愛していた緋ノ宮の綺麗な庭などを、せめて私が生きている間だけでも、美しく保ち続けたかった。
多分、もうかなり長い間帰れていないし、あそこに帰る権限も奪われて、庭なんてものはもう見てられないくらいに荒れているのだろうが。