「─お前の恋人は、」
「へ?」
「恋人!いるんだろ。奴らがお前がわがまま言うって、嘆いていたからな」
「は!?人のことなんだと思ってんの!結婚くらい、好きな人とさせろっ、ばーか!!」
「口が悪い」
パシッ、と、彩蝶様の頭を叩く千景様。
この様子から、幼なじみゆえの仲の良さが伝わってくる。
「手を打たねぇと、おまえ、恋人を愛妾にしろって言われるぞ。というか、させられるぞ」
「?、どうやって……」
「契約。各家あるだろ。春は“光の契約”、夏は“緋の契約”、秋は“藍の契約”で、冬は“静の契約”……“四季家”に揃ってるんだ。四ノ宮も例外じゃない」
千景様の言う通りだ。安易なものでは無い。
だからこそ、“四季家”はこれまで栄華を極めてきたとも言える。
「あぁ……“久遠の契約”のこと?確かに、“四季家”の婚姻において、これを四ノ宮が代表で使うから、四ノ宮の許可なく、離婚はできないものだね。それでどうして私が契約するの」
思い至ったが、不服げな彩蝶様。
“四季家”出身であるならば、出身家の契約が使えるという仕組み。
神様と愛し合ったという、四ノ宮の先祖が作ったものだそうだ。最愛の人と離れないため、それを阻む全てを遠ざけるため。
逸話によると、時が流れ、最愛を老衰で失った神様は元通り、社に戻ったとか、一緒に天に行ったとか、色んな話がある。が、真実は不明。
しかし、契約は今現在も存在しており、それが破られた暁には、死で代償取らされる不思議な現象は今も廃れていない。
このことから、神様は本当に存在しているのだろうと考えられている。
つまり、四ノ宮家の人間ならば、彩蝶様を無理やり動かすことも出来るのだ。
もっとも、当主になるということは各家にて認められている神様が了承するということだ。
つまり、その当主の血筋からかけ離れれば離れるほど、契約を使用する度、大きな反動がある。
人を動かすならば、代償は倍と考えた方が良い。
朱音は当主の娘だった為、無害だったが……。
「いるだろ。身内に、叔父が」
「ああ。いたね」
「忘れんなよ。その人も使えるはずだろ?勿論、大きな代償は生じるだろうが……」
「やだな、使えないよー」
千景様の言葉を、ケラケラ笑って否定する彩蝶様。それを見て、千景様は何かを察したように、頭を抱えてしまわれる。