「─よく来たな!千景!!」

屋敷に入る前。玄関前に仁王立ちしていたのは、若い女の人。綺麗な黒髪、快活な笑顔。
動きやすそうな格好をした彼女は、厳かな雰囲気とは似つかわしくないほど、明るい。

「……お目通りが久方振りとなってしまい、申し訳ございません。宮様」

朱音が戸惑っていると、彼女に向かって、千景さんは深く頭を下げる。それに合わせ、慌てて、朱音が頭を下げると、

「つまらん。それは、やめろと言ったろ」

と、上から彼女の不服そうな声。

「千景は本当にクソ真面目でつまらん〜千陽みたいに、『やっほ〜元気?』くらいのノリで来いよ〜飽きてんだよ、それ〜」

「普通に不敬罪だわ、アホ」

「そう!それそれ!」

……かなり、面白い方のようだ。
千景さんの反応が嬉しかったのか、彼女はバシバシと彼の背中を叩きながら、

「お前が結婚するなんてな!私は嬉しい!!」

「……なんでだよ」

「だって、そんな愛想ひとつなくて、無口だし、仕事人間のお前が!見合いとはいえ!お前が!」

「あー、うるせぇー……」

元気な方だ。それはもう、かなり。

「─あっ、彼女がお嫁さん?初めまして!私の死んだ父親は会ったことあるみたいだけど、私は初めまして!四ノ宮当主の、四ノ宮彩蝶(アゲハ)ですっ!緋ノ宮の令嬢だよね?ごめんね!最上位の四ノ宮当主が、こんなので!」

あまりの勢いに、何も言えない。
きちんと最上礼して敬うべきなんだろうが、千景様とのやり取りを見ていたら、そんなことも出来ない。

というか、この家の中で彩蝶様が異質に見える。
周囲で軽くお辞儀をした状態で全く動かない使用人達と、彩蝶様の元気さは合わない。

本当ならば、神様からの祝福で、当主に合わせた使用人、雰囲気に仕上がっているはずなのに。

彩蝶様に似つかわしくない厳かな四ノ宮家は、彼女をとても孤独にしている。
どうしても孤独になるしかない当主を守るのが、神様なのに。


「皆言うから、気にしないで!私も何でこんなクソ面倒くさい地位にいるのか、自分でも理解してないから!」

「いい加減にしてくれ……」

「嫌だね!今でも言い続けるよ!ある日いきなり来たかと思えば、あなたの親は違う、あなたは四ノ宮の後継者って、頭おかしいでしょ!」

「お前が駄々こねたおかげで、おじさんもおばさんも普通に遊びに来るだろ……」

「それで、妥協してあげただろっていう態度がムカつくの!わがままだなんだって!私のことを人形みたいに!!私は生きた人間だ!」

「…やっぱ、会いに来なければよかったかな」

「なんでそんな事言うの!酷い!!」

「喧しいわ。……来ないと、お前が家に乗り込むとか言うから……後から色々大変な目に遭うくらいなら、と思って、朱音を連れてきたのに……なんで、朱音の前でお前の子守りしなきゃならないんだ?」

「ド正論すぎて」

彩蝶さんのあまりの感情の昂りに、千景様は深いため息を零すと。