千景は、祖父に似ているから。
見た目も、中身も。
そして、弱音を吐くことが苦手だ。
長男だからか、それとも……。

「ねね、ハルちゃん、カゲくんのお嫁さんが、緋ノ宮の御息女って本当?」

考え事をしていると、母さんが訊ねてくる。

「ああ、うん。ほんとだよ」

「そうなの?…元気そうだった?」

それは多分、彼女自身の話だろう。亡き緋ノ宮の御当主夫妻と友人として仲良かった両親。
家格などをきちんと礼儀としては把握しつつ、友人としての時は友人として語り合ってくれたというお二人が亡くなった時、葬式では一人の少女が泣いていた。

『お父さん、お母さんっ!なんでっ、なんで、私を置いて逝くのっ、朱音も、連れて行って…っ』

─遺された一人娘の慟哭は、大人の胸を抉った。
時が経ち、再会した少女の目は。

「……うん、元気そうだったよ」

希望に満ち溢れ、キラキラしていた瞳は全てを諦めたかのように澄んでいて、身体はとても細くなっていた。

家でどのような扱いを受けているかは一目瞭然で、それなのに、その気高さは失われていなくて、千景の初恋の相手は格好良い人だった。

「楽しみね〜!」

わくわくしている母さんには申し訳ないけど、ここに来る彼女は契約結婚でしかない。
真っ向から想いを伝えたところで、彼女は逃げるだろうから、と、千景が言い張ったのだ。

(あいつ、僕に内緒にしてることがあるんだよな……半身の僕にくらい、吐き出したらいいのに)

弱音を吐けないなら、吐ける場所を。
半身であるはずの双子の僕でダメなら、彼女相手に甘えられるようになればいい。

彼女はあまりにも直球な言葉を吐くみたいだから、ちょっと心配だけど。

「そうだね」

それはそれとして、2人の行く末が幸多きものであることを祈るばかりだ。