「─そういや、今の火神の状態は分かりますか?」

そういえば、あの家からお見合いを理由に出てかなり時間が経っている。
完全に忘れていたわけではないが、賢いあの子達ならば、既に行動を起こしているだろう。

「あー、それは分かるが。知りたいか?」

予想通り、把握してるらしい千景さんに頷く。

「ええ、まぁ……とりあえず、私が火神から引き抜きたい使用人には常日頃、私が24時間経っても帰らなければ、屋敷から抜け出すように言いつけてますので、既に移動してるでしょうが……」

「指導がしっかりしてるな」

「いや、私がいないということは、私へぶつける鬱憤が使用人に向きますし…あ、私のことを同じように人間扱いしてくれなかった使用人は省いてます」

「それでいい。忠義のない使用人なんていらん」

「ありがとうございます」

とても話がわかる人で助かる。
ハッキリと話してくれるので、本当に話が早い。

「それで、抜け出した先は?」

「現在は住む人をなくした緋ノ宮の屋敷です。両親死後、両親達の遺品を含めて保管して下さると申し出てくれた方がいたのは覚えてますが、誰か思い出せず……一先ず、幼い頃に私が開けた緋ノ宮のとある場所にある秘密の入口を教えています。そこから中に入れば、備蓄庫に生活できるだけの食料や衣服があります。なので、それを利用するように言いつけました。緋ノ宮の人間が持たされていた特殊な鍵でしか、その備蓄庫は開けられないようになっているので、それを1番親しい使用人に預けています」

「その使用人は信頼出来るのか、」

「ええ。─緋ノ宮の血がそう言いましたので」

「……なるほど?」

彼女は間違いなく、うまくやる。
朱音の乳母の娘であり、朱音と“緋の契約”を結んでいるから。

「……あ、緋の契約か。朱雀宮の象徴の色が緋色だもんな。緋の契約は、朱雀宮と約束したくない理由のひとつだ」

「そうなのですか?」

「ああ。絶対、ろくでもない未来を引き寄せそうで……契約書で十分だよ」

千景様はそう言って、溜息をこぼした。

「楽しいことが大好きな朱雀宮と緋の契約は、リスクがある。火神見ていたら、分かるだろ」

「……」

─朱雀宮様は、火神の誕生を許した。
代わりに、緋の漢字を使うことを禁じた。
他三家が持っていて、火神が持っていないもの。
それは事実上、朱雀宮が火神を認めていない証。
そう言われている。誕生を許した朱雀宮様の御心は分からないが、緋の契約というのは、朱雀宮様がよく使う“指切りげんまん”みたいなもの。

勿論、破れば、命と引き換え。
その契約を、分家は宗家と結んでいる。
しかし、火神は結んでいない。
火神は1度も、朱雀宮様の尊顔を見たことがない。