「─意外とあっさり、全部話すんだな」

「え?何か変ですか?」

「いや、火神が罰せられるということは、その分家を生み出した緋ノ宮も罰せられる可能性がある。今、緋ノ宮の当主は不在だからな……取り潰すには絶好の機会だし」

「ああ……別に構いません。両親、祖父母共々、緋ノ宮の名に固執してませんでしたし、あの人達にあったのは、四大名家…今で言う、三大名家に対する忠義だけでした。不要とされるのならば、それまで。私は一人でも生きていけますし、此度の契約結婚が終われば、一生遊んで暮らせるほどの金額を渡すと言われていますし」

「それは勿論渡すが……じゃあ、告発する以上は、覚悟の上なんだな?」

「はい。身内の不始末で、あなた方に迷惑をかけ続ける方が、祖父母や両親に叱られますから」

千景さんは驚いたように、目を瞬かせる。
仮にも実家であり、亡き家族と過ごした場所であっても、簡単に手放せる自分は薄情だろうか。
緋ノ宮がなくなるということは、緋ノ宮の財産も全て返さなければならない。
つまり、祖父母や両親と暮らしたあの屋敷も、その美しい庭(今はどうか知らないが)も、返さなければならないということ。
勿論、気になることも、心残りもある。
願わくば、余生はあの屋敷で過ごしたかった。
でも、朱音のそんなわがままと彼らの手を煩わせることを天秤にかけたら、朱音がどちらを切り捨てて、どちらを優先すべきか分かること。
それが、“四季家”の一派に加わっている責任だ。

何も力がなく、虐げられ続けた日々。
同じように虐げられる使用人を見て、自分の無力さを実感しては悲しくて、悔しかった。
あの日々を無くせることは、朱音のわがままよりもずっと、もっと、価値がある。

「幼い頃、祖父母や両親から言われました。上の者は、下の者を守るためにあるのだと。私は緋ノ宮の唯一の後継として生まれながら、その役目を果たせませんでした。全ての権利を奪われたなんて言い訳や、今更の償いであの時苦しんだ人が救われるわけではありません。全て、私の自己満足に過ぎない。それでも、その役目を漸く果たせる今、やらない選択はありません。何より、緋ノ宮家の取り潰しだけで済ませてくださるなんて、四ノ宮家やあなた方には深く感謝いたします」

朱音は両親や祖父母の分も、深く頭を下げた。
祖父母や父は伯母を止められないと、日々、悩み、苦しんでいた。
祖母は最期、伯母を捕まえて、きちんと罪を償わせて欲しいと言い遺した。

誰かを救う力も、祖母の遺言を叶える力も、朱音にはなかった。
それを、この契約結婚で得られるならば、彼の妻であるうちに全てを終わらせなければ。

「……なるほど。顔を上げろ」

言われるまま、頭を上げ、彼を見た。
彼は朱音の言葉と行動を見てか、楽しそうに、ニッ、と、笑っていて。

「緋ノ宮の夫妻はとても優秀だと聞いていたが、本当にそうだったようだな」

「え?」

「良い娘を持った」

「……」

「お前、本当に家庭教師いるか?」

「えっ、欲しいです…」

「ハハッ」

褒められているのか、からかわれているのか。
どちらにせよ、家庭教師は欲しい。
今の自分で、社交界にはでる自信はない。

「─じゃあ、ひとまず、お前はお前の目から見て、有能な者を橘に連れて来い。お前の側仕えとして、雇う」

「本当ですか、」

「嘘や冗談は言わん。全員が全員、使用人も腐ってたわけじゃないんだろ?」

「はい、それは……」

「なら、連れて来い。歓迎するよ、お前共々」

「あ、ありがとうございます!きちんと、貴方の妻としての役目は果たします」

「そう気負うな。…俺が、お前が良かったんだ」

「?」

「いや、なんでもない」


誤魔化すように、頭を撫でられる。
なんて言ったかは聞こえなかったけど、悪い意味ではないのだろう。