「父さんと母さん、色んな意味で“四季家”に向いていない人達だなって思っていた覚えはありますが、本当に向いてない人達でしたね」

そう朱音が言うと、千景さんは否定した。

「いや、そうでも無いんじゃないか?そもそも、宗家を敬うという話がよくわからん。別に俺達は拝められたいわけじゃないし。そもそも、血を血で洗うような継承争いを防ぐため、生まれたのが分家制度だ。朱雀宮曰く、緋ノ宮は朱雀宮の望むとおりに仕事を片していたという話だから、向いていないわけじゃない。権力ばかりを口にする、それこそ、お前の従姉妹達が異常なんだ」

「それはそうですね」

何を勘違いしてるかは知らないが、火神に生まれたことは、何もすごいことじゃない。
従姉妹は常に朱音と自分を比べ、朱音に残飯を食べさせ、掃除中の廊下を汚し、自身が起こした後始末を朱音に片付けさせていたが、それで社交界の目は黙せても、四ノ宮を始めとする宗家が騙されるわけがないのだ。

朱音も面倒くさくて無視して従っていたが、そもそも、彼らは全てをわかった上で泳がせていたのだろう。今回のお見合いの件も、多分、その1種。
そういう意味で言うなら、金食い虫である火神を潰す情報を提供するという意味で、少しはこの契約結婚で、朱音が返せるものも生まれているのかもしれない。

宗家が特別ではないと口にする血筋に固執する分家の分家…その姿はなんて、滑稽なのだろう。
考えてみれば、両親は緋ノ宮の名にあまり興味無さそうだったし、たまに連れていかれていたパーティーは単純に友人との交遊を楽しんでた。

「─火神に、なにかするんですか?」

彼らを庇うほどの愛情なんてない。
ただ願うことは、火神の使用人達は救いたい。
勿論、主人の行為に乗って、朱音の残飯を床にばらまいて掃除させた使用人とか、そういう奴ら以外の優しい使用人を。

「次、何かしてきたら手を打たないとならない」

「そうですか。例えば?」

「色々とあるが、そうだな。とりあえず、お前はあいつらに虐げられていい存在ではないことは覚えておいてくれ。勿論、どんな身分であれ虐げられていい人間なんていないが、あいつら相手なら遠慮はいらないだろう。お前にやってきたことは、あまりにも異常だ。不敬罪で取り締まる」

「…全部知ってるんですね」

「一応、“三大名家・橘家”のものなんでね」

全てをわかった上で、泳がせている。
それを知ってしまった以上、教えなければならないことも山ほどある。

「じゃあ、四ノ宮家から毎月配布されるお金についてとか、使用人への給金が滞っている件とか、借金など、あの家に関することは全てお話します。なので、早く手を打ってください」

─これ以上、彼らが恥を晒す前に。