四ノ宮というのは、“四季家”をまとめる役割を持った家だ。神の祝福を受けた家が“四季家”なら、四ノ宮家は神様の子孫と言われている。

そんな家に、私なんかが顔を出すなんて……普通に逃げ出したい気分である。私なんか、とは言うなと言われたが、どう考えても、身分に釣り合わない。

「お前が逃げても、四ノ宮から来るぞ」

「えっ」

「顔に書いてる。行きたくないって」

「……すみません」

「ハハッ、別にいいよ」

朱音が縮こまって謝ると、彼は笑った。
楽しそうなところ悪いが……。

「その、四ノ宮が来る、というのは」

「…ああ、そのまんまの意味だ。四ノ宮は先代が早くに亡くなってな。今の当主は特殊な事情で田舎で育てられたんだが、まぁ、深層の令嬢とは程遠い。とにかく好奇心旺盛で、年齢は確か22だったか?年齢のことを聞くと殴ってくるから……」

はぁ、と、千景様はため息をつきながら。

「名前は、四ノ宮彩蝶(アゲハ)─朱音が気にしてる、身分とは?ってなるほどの変わり者だよ」

変わり者…千景様を殴る時点で、深層なお姫様ではないんだろう。
にしても、そんな女性が“四季家”の頂点。
齢22でそんな重責を担うなんて、なんだかんだ言って、とても優秀な人なんだろう。

「─というわけで、俺のことは千景と呼んでくれ」

「はあ……って、何がというわけなんですか!」

「だって、おかしいだろ。やっぱり」

言ってることは正論だ。
でも、無理なものは無理。朱音は自身が令嬢としての道は外れている自覚はあるが、結局、それでも、自分は緋ノ宮で生きていた頃と同じように、“四季家”のテリトリーから逃れて生きてきたわけではない。

「─千景さん、ではダメですか?」

「……」

色々と考えた末の結論にも、不服そうな彼。
千陽さんは笑って、簡単に許してくれたのに!

「……まぁ、いいだろう」

「ありがとうございます!」

─もう少し慣れてからなら、いけるかもしれないが、今の心情では無理である。
そもそも、今日が初対面だ。
無理言わないで欲しい。

「名前の呼び方も決まったところで、軽く“四季家”の話をするが……まず、春夏秋冬の神様が祝福を授けた家についてはわかるな?」

「はい。それはもちろん。春の橘家、夏の朱雀宮家、秋の桔梗家…そして、冬の柊家ですよね」

「そうだ。柊家は四ノ宮家の一言で今のところ、滅亡している」

「四ノ宮家の一言だったんですか」

「正確に言えば、彩蝶の一言だな。あいつは年齢の割には悟りを開いたような話し方をするんだが……四ノ宮の一言が、“四季家”の全てだからな。柊家は主流が弱り、分家が調子に乗り始めていた。分家は三家あったが、その内の一家が全ての権限を捨てていなくなったほど」

「それは、前の四ノ宮家当主様の時代ですよね」

「そうだ。その際、冬の分家の椿家は“四季家”というテリトリーから、完全に離脱した。その事により、冬にはストッパーがいなくなった。両親を失った柊家の子どもが利用されそうになって」

「それで、滅亡させたと」

「“四季家”を暴けるのは、四ノ宮だけだ。犯罪を犯していたとしても、それを裁く権利を国は持たない。前の当主は基本的に部屋から出ず、常に祈りを捧げているような人間だったからな……ある意味、話が出来る時点で彩蝶の方がマシだな」

流石は三大名家と言ったところか。
四ノ宮家の当主に対して、あまりにも気さくである。