両親の遺骨や遺品の行方についても重要だが、それは今考えることじゃない。
というか、どうして今まで忘れていたのか謎だが、ひとまず、預かってくれている人の正体は置いておいて、呼び方……千景様の、呼び方、か……。
「あの……すみません」
悩んだ末、答えは出ず。
「……正直、千景様でも畏れ多いんですが」
「なんでだよ」
「いや、橘家の御長男ですし……」
「それ言うなら、お前は緋ノ宮の長女だろ」
「……」
否定が出来ない。それは事実だからだ。
「その上、お前の母君は橘の分家である春ノ宮(ハルノミヤ)家と聞いたが」
「……」
これも否定できない。事実だから。
「血筋においても全く問題ないのに、一体何故、お前は大人しく、火神に良いように使われていたんだ?普通に不敬罪だぞ」
「いやぁ、それは……」
「お前は両親共に、“四季家”の出身じゃないか。一方、火神の当主は外部の人間だろ」
「それは……まぁ…はい……」
伯母が愛したのは、外部の人間。それはそう。
“四季家”と呼ばれる、春夏秋冬の家の出身ではない。本当に、何の繋がりも無い外部の人間。
「尤も、春ノ宮家とお前の母は絶縁状態だったそうだが……春ノ宮の当主とは知り合いか?」
「……一応、祖父と孫という関係ではありますが、顔を合わせたことはありませんでした」
何故なら、母が嫌がったからだ。そして、母が嫌がる相手に会いたいと思うほど、朱音に祖父への憧れなんてものはなかった。
祖父という存在への思いは、緋ノ宮の祖父が叶えてくれたし、春ノ宮の祖父が亡くなって、代替わりした話を聞いた時も、何も思わなかった。
薄情かもしれないが、本当に興味がなかった。
─だって、両親の葬式にも来なかったし。
「先代が亡くなった後、その妻が追放された話は聞いているか?」
「……えっ!!??」
「聞いてないんだな」
「聞いてないです!何ですか、それ……というか、私、一応、両親が生きていた頃までは、“四季家”とかについて学んでましたが、深い部分に触れる前に両親が亡くなったので、教育が中途半端なんです。千陽さんにお願いして、一応、家庭教師を手配してもらう予定ですが……」
「ああ、千陽から話は聞いてる。じゃあ、詳しいことはその家庭教師に学ぶといい。簡単に今起こっていることを説明しよう。その後に1度、宮家に顔を出して、その後に婚姻届を出しに……」
「ちょっ、ちょっと、待ってください」
「ん?」
この後の予定を話されて、頭の中で整理していたら、まさかの婚姻届提出が1番最後。
早い方が良かったのでは…?という疑問が絶えず、朱音は思わず、彼を止めてしまった。
不敬とか、そんなことを言ってる場合じゃない。
「どうした?」
「あ、い、いえ……その、顔を出しに行くっていうのは……」
「ああ、四ノ宮(シノミヤ)家に」
「え、えっと、なんでわざわざ…?」
「だって、婚姻届出す前じゃないとだめだろ。“四季家”が危険な場所だということは知っていても、それは“百聞は一見に如かず”と言うし」
「それはそうですが……」
契約結婚なのに、彼は真面目過ぎやしないだろうか。わりと軽い気持ちで受けたことが申し訳なくなってしまうほど、彼は色々としてくれるみたいで、何をすれば、この恩は返せるだろう。