エピローグ♢アリアさんの独り言




 ただ気まぐれに遊びたいだけ。
 人助けなんてしないの。

 だから今回は特別だった。




「お願い。ワタチね、たすけたいんだよ……」

 ある日のこと、女の子の顔をした人形が話しかけてきた。
 その子をじっと見つめる。

 愛らしい顔つき。
 幼い子供に人気の人形だとすぐにわかった。

 それに、この世にいてはいけないこっち側のイキモノだということも。


「アリアは、何でも屋じゃないから。同じ幽霊でも助け合いなんてしないよ?」


 
 女の子の人形は、しょぼんと顔をうつむかせる。

 そんなにわかりやすくしょんぼりされたって……。
 助けてあげたりしないんだから。…ふんっ!



 そう思いながら、もう一度ちらりと人形を見つめる。
 よく見ると、腕は取れそうだし、あちこちがぼろぼろだった。


「ねえ、どうしてそんなにぼろぼろなの?」
「これは……いいンダ。名誉のアカシだから」

 そういってにこりと笑う。

「名誉の勲章?まさか身を(てい)して助けたりしてるの?」
「ウン……」
「ばっかじゃないの!」

 思わず大きな声になっちゃった。
 だって人形のくせに、誰かを守るなんておかしいもん。


「ぼろぼろになるのはイインダ。だって…ともだちを守りたいから」


 友達……。
 その言葉に、なぜか心臓あたりがちくりと傷んだ。

 おかしいね。
 もう心臓なんてとっくの昔に止まってるのに。
 

「なんだか、だんだんチカラが入らなくなってキチャッタの」

 そういって右手を上にあげてみせたけど。
 確かに今にもとれてしまいそうだった。

 目の前の人形ちゃんは、どうやら身を挺してお友達を助けてるらしいの。
 そんなことアリアには関係のない話。

 人助けなんて、したくないんだから。
 そう思ったのだけれど。
 

 今日は綺麗な満月だったから。
 そんな理由をつけて。
 協力してあげることにした。




 満月に照らされた夜の学校。
 淡い光の中、窓の外を見つめる。


 さっきまで、夜の学校の中を逃げ回っていた陽菜ちゃん。
 正面玄関を出て、校舎の外を歩いていた。

 その腕の中には、あの人形が抱かれているのが見えた。
 
「友情って、人と人以外にも芽生えるなんて」

 窓から見えた二人は、笑いあっているようにみえた。

 なんだろう。
 胸のあたりがぽわんと暖かくなって。

 クスッと笑ってしまった。




 
「あーあ。つまらなかったなー。誰も閉じ込めたり、あそんだりできなかった」

 誰かを閉じ込めたり、悲鳴を聞くのはすごく楽しい。


 今宵はつまらなかった……。
 つまらなかったはずなのに。


 なんだか気分がいいような気がするの。

 なんでだろうね……。

 まあ、いっか。こういうのもたまにはね。