「えっ、なにか入ってる……」
 
 わたし一ノ瀬杏樹(いちのせあんじゅ)は、ごく普通の中学二年生。
 
 5時間目の授業が終わった放課後。
 学校から帰ろうと、昇降口で靴箱の扉に手をかけていた。

 ゆっくりと扉を開けると、あるはずのないものが入っていた。

「……これ、なんだろう」
 

 それは見慣れない真っ黒の封筒。
 手に取って送り主の名前を探してみたけど、見当たらない。

 不思議に思っていると、わたしはハッとする。
 もしかして、これって……。
 
「どうしたの?」

 あとから昇降口にやってきた奈央ちゃんが、顔を出して覗き込む。
 わたしは慌てて封筒を背中に隠した。
 
「な、なんでもないよっ」
「……ふーん」

 一瞬不思議そうにしたけど。
 奈央ちゃんはそのまま靴を履いて外に出ていった。

 よかった。なんとかごまかせたみたい。
 心臓がどくんどくん。と音を立てている。
 
 この手紙を隠したのには、理由がある……。

 きっと、この手紙の存在を言ってはいけないと思ったからなんだ。