「いや、ちょうどこの間倉庫整理してたらさ、期限切れの手持ち花火でてきてさ。部長に言ったら、捨てるか、今度の色が変わるペン企画にでも役立てろって言われてとりあえず営業車に積んでんだよな」

「あ、航平の今度の企画、花火ペンだっけ? 一本でどんどん色が変わるペンの企画だったよね。あれいいと思うよ」

「サンキュ。てことで失恋花火付き合ってやるよ」

「えぇっ! やだよ」

「いいじゃん。俺も花火の色味とか企画のヒントにしたいし、繭香の課長への恨み節もたんまり聞いてやるからさ」

「ちょっと、声大きいよ、ばか」

「ごめんごめん、じゃあ本渡したいし、仕事終わったら一緒に帰ろーぜ。いつものコンビニ前で待ってて」

「え、ちょっと航平」

「あ、そうそう深呼吸って気持ち切り替えのスイッチになるらしいぞ」

「え……?」

航平は花火についての私の返事も聞かず、私の呼びかけにも振り返らずに手をあげながら給湯室から出て行った。

そして気づけば私のマグカップからは航平が入れてくれていたコーヒーが湯気を立てている。

「いつの間に……ったく」

そう言いながらも、仕事を終え家に帰ればきっと泣いて一日が終わりそうだった私には航平の気遣いが素直にありがたかった。航平にはなんだか気恥ずかしくて素直にありがとうって言えないけれど。

「いまは仕事中だもんね……切り替え切り替えっと」

私はマグカップを手に持つと、航平から言われたとおり深呼吸をひとつしてからようやく事務所へと足を向けた。