「今日の夜、話きいてやるよ。ちょうど本返す日だったし」

「空いてるけど……そんな気分じゃないし本も今度でいいよ」

「そういうなって。繭香の貸してくれた『恋の花火はコーヒーのあとで』すっげ良かったわ」

「航平って何でも読むんだね」

「いや、繭香のお勧めの小説がハズレないんだよ。もうラスト、主人公が失恋して泣きながら“失恋花火”するシーンはウルっときたわ」

私は自他ともに認める本の虫だ。休日は外に行くより一人暮らしのアパートでゆったり読書を楽しむのが唯一の趣味なのだが、それを知った航平が私のお勧めの本を貸して欲しいといい出し、私が本を貸し出すようになってもう二年になる。

「私も久しぶりに読み返そうかな……いやでも傷えぐりそうだからやめとこ」

『恋の花火はコーヒーのあとで』は新入社員と上司の切ない恋を描いた恋愛小説だ。 

『恋の花火はコーヒーのあとで』は新入社員と上司の切ない恋を描いた恋愛小説だ。ずっと好きだった上司に恋心を伝えることができないまますれ違い、結局上司はヒロインの後輩と結婚してしまうのだ。最後、ヒロインは“失恋花火”と称してひとりで花火をしながら上司の好きだったところを花火をしながら呟き、どこにもいけない恋心を消化しようとする切ないラストとなっている。

「……なぁ、マジでやるか失恋花火」

「え?」

ふいに真面目な顔した航平に向かって私は思わず眉を顰めた。