背後から聞こえてきた、その声に宮本さんや香田課長じゃなくて良かったと心底ほっとしながら、私は口角を上げてその人物を振り返った。

「ああ航平か。えっと、なにが?」

「あのな、何がって決まってんじゃん」

航平は私の横にマグカップを置くと、ポットに水を入れてスイッチをオンにした。

すぐにポットからお湯を沸かす音が聞こえてくる。

「さっきの……そのなんだ」

「香田課長のご結婚のことでしょ」

結婚というワードを言いにくそうにしている航平に、私がなんてことない顔をしてそう答えると、航平が切れ長の目を訝し気に細めた。

「なんでそう強がるかね」 

「別に強がってなんか……」

「俺の前で嘘ついても無意味だと思うけど」

「……まぁね」

唯一の同期入社の航平と私は偶然地元が同じだったこともあり入社後すぐに打ち解けた。

営業マンらしく社交的で明るい航平はいつもポジティブで、ややメンヘラ気質のある私とは正反対で、私は航平に仕事の悩みや愚痴を聞いてもらううちにいつしか恋愛の話も相談するようになった。

私が長らく片想いをしていることを知っているのは航平だけだ。