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「はぁあ……」

私は給湯室に入ると誰も居ないことを確認してからようやくため息を吐きだした。そしてすぐに目じりに浮かんだ涙にハンカチを押し当てた。

「結婚……か」

今まではいつか二人が別れるかもしれない、もし別れたらちゃんと気持ちを伝えよう。そう思っていたがもう香田課長に気持ちを伝えることは一生ない。できない。

「もっと早くに……言ってればなにか変わったのかな……」

宮本さんが入社してきたのは私が入社した翌年だった。小柄で可愛らしい見た目と笑うと見える八重歯が良いと男性陣たちが騒いでいたのを思い出す。

そんな宮本さんと香田課長が交際を始めたのはちょうど二年前の納涼会のすぐあとだった。あとから聞いた話では宮本さんからの方から香田課長に告白して交際が始まったらしい。

『いや~まさか告白されるとは思ってもみなくて……一生懸命に想いを伝えてくれる彼女に僕も応えてあげたいって思ってさ』

昨年の忘年会で酔った勢いでそうのろけていた香田課長の言葉が忘れられない。

「私の方が宮本さんよりずっと前から好きだったのに……」

ポタンとマグカップの横に落ちた涙を私は慌ててハンカチで拭う。

その時だった──給湯室の扉が開いて私の身体が小さく跳ねた。

「繭香?大丈夫か?」