「ん? そういや水野は昨日来てなかったな」

「あ……ちょっと予定があって」

私は上手に笑って嘘がつけているだろうか。
予定なんてない。行けなかったのだ。

二人の交際がわかって二年、そろそろ結婚するんじゃないかと誰かが話すのが聞こえてくるたびに心が鉛のように重くなった。段々と懇親会も二回に一度しか行けなくなった。同じ空間で笑顔を見せている二人の姿を見るのがどうしようもなく辛いから。

「まぁ、デートも大事だな」

「そんなんじゃないです。セクハラですよ」

「あー、悪い。詮索しすぎた」

「しょうがないんで許してあげます。それにしてもいつもはクールな香田課長の困った顔、私も見たかったな」

「おい」

香田課長が私にむかって綺麗な二重の目を細めて見せる。

「ぜひ結婚式呼んでくださいね」

思ってもないことを言葉に出すのは苦しい。香田課長のタキシード姿と私の一つ後輩である宮本さんのウェディングドレス姿のツーショットなんてできることなら一生見たくない。

「勿論だよ、ずっと俺のサポートをしてくれてる水野を呼ばないわけないだろう」

入社して五年目、香田課長は当時新入社員だった私の教育係であり、同じ営業二課でずっと営業と営業アシスタントとしてタッグを組んでいる。

はじめは仕事のできる二つ年上の香田課長に純粋に憧れていた。気配りができて優しくて、残業になりそうになればさり気なくサポートをしてくれて、仕事でミスしても叱ることなく励ましてくれた。

上司と部下。先輩と後輩。その距離も心のカタチも変えてはいけなかったのに、気づけば私の中で香田課長は特別な存在になっていた。

恋に変わってしまっていた。

そして想いを伝える方法も勇気も見つけられないまま、気づけば香田課長は宮本さんと交際を始めた。