繭香がまたソファーに座ったのを見ながら、俺はお気に入りのスタバのコーヒー豆でエスプレッソを作りミルクを二対八の割合で注ぎ入れる。

最後は昨日作りおきしていた生クリームを乗っけて完成だ。

(繭香喜んでくれるといいな)

俺は繭香の前に二つのマグカップをことんと置いた。

「はい。おまちどう」

「わぁ、ありがとうー、お店みたい!」

繭香が白いマグカップを覗き込むと俺に向かってにこりと微笑む。

(……笑ってくれて良かった)

「飲んでいい?」

「火傷すんなよ、猫舌なんだから」

「わかってるよ」

繭香は少しだけ口を尖らせてからマグカップにふうふう吐息をかけると、一口カフェラテを口に含んだ。

「おいしーっ! いつも入れてくれる航平のコーヒーより美味しいっ」

「給湯室にはドリップしかないからな」

「あれ、航平も生クリームつき? いつもはブラックじゃん」

「あ……」

俺は内心しまったと思いながら、気恥ずかしさを誤魔化すように首に手のひらを置いた。

「まぁ、会社ではクリープしかないからブラックにしてるけど。そのなんだ……」

「ヘ〜甘党だったんだ」

「まあな」

俺は自他共に認める甘党だ。でも会社では繭香が香田課長はブラックコーヒーが似合うと絶賛していたのを聞いて以来、ずっとブラックを飲んでいたことは繭香にはマグカップのくだりと共に一生言えないだろうと思う。

俺たちは窓から見える満月を見ながら並んでコーヒーを飲む。

繭香は香田課長のことを考えてるんだろう。寂しげな目をしたまま、カフェラテをゆっくり飲み干していく。