「なぁ、コーヒー飲みに来ない?」

「えぇっ?!!」

「わっ! ……ちょ……っ」

素っ頓狂な声を上げた私に驚いたのか、航平の手元も大きく揺れて、二つの線香花火は同時に地面に落っこちた。

「あーあ、繭香のせい」

「ちょっとなんで私のせいなのよっ、航平が……へ、変な事言うからじゃん」

「俺コーヒー淹れるの好きだし上手いじゃん? 失恋癒すのはコーヒーってよく聞くでしょ」

「聞いたことないんだけど」

「はいはい、で? どうせ今夜暇だろ?」

航平は燃え尽きた線香花火を私から取り上げるとバケツの中に入れ立ち上がる。私もつられて立ちあがれば背の高い航平が涼しい顔で私を見下ろした。

「……じゃあ日付が変わるまで」

「ぷっ、シンデレラかよ」

「うるさいなぁ」

口を尖らせた私を見ながら航平がククッと笑う。

「コーヒー飲んだら《《ちゃんと》》送ってやるよ」

「あ、当たり前でしょ」

そう可愛くない返事をしながらも、航平の誠実な言葉に心臓が無意識にとくんと跳ねた。『送ってやる』という言葉の裏は私が安心して航平の家にコーヒーを飲みに行けるように。

そして一線を超えることなく零時になれば約束通り私をアパートに送っていくという意味が《《ちゃんと》》こめられているから。