「……ずっと髪伸ばしてるのもカラーしないのも課長が黒くて長い髪が日本の女性らしくて好きだって言ってたから……見積書だってプレゼンシートだって会社のためでも自分のためでもなく課長のためだから頑張れた……」

「…………」 

「ずっと好きだったの……ずっとずっと課長だけを見てたの……」

目の前がさっきからずっと滲んでる。想いを吐き出す度に胸はズキズキ痛んで爛れていく。

「いつか好きになって欲しかった……私だけに向ける笑顔が欲しかった。私に……気づいて欲しかったの……」

「うん」

「大好きだった……っ」

「繭香、これ使って」

「課長が……好きなの……忘れられない……っ」

航平からハンカチを受け取ると私は子供みたいに泣きじゃくった。

どのくらい泣いていただろうか。

航平は私の背中を摩りながらただ寂しげな表情で花火を見つめていた。


「落ちついた?」

私は航平のハンカチを握りしめたまま、こくんと頷く。

「無理に忘れる必要ないと思う。あとちゃんと吐き出して偉かったと思う」 

「なによ……それ……ばかにしないで」

「してない。俺から見たらいっぱいいいとこあるのになって。勿体無いって思う」

「意味わかんない……なんで急にそんなこと言うの?」

「なんでだろうね。はい最後これは一緒にやろ」

そう言って航平が私の手に握らせたのは線香花火だ。

「なぁ、どっちが長くもつか競争しよ」

「え?」

急に子供みたいな遊びを提案する航平に思わず私は目を丸くした。