「早すぎ」

「繭香は遅すぎ」

「うるさいなぁ」

航平に憎まれ口を叩きながらも、思っていたよりも『食べる』という行為ができないほどに失恋の傷は深くなかったのか、はたまた日にちをおいてじわじわと『食べられない』日がやってくるのかはわからないが、目の前のオムライス弁当は気づけば綺麗になくなってた。

航平がバケツに水を汲んでくると、空っぽになった私のお弁当の容器をゴミ箱にさっと入れる。

「早速はじめるか。”失恋花火“」

「あ、そうだった……」

「あのなぁ。ほら花火もって」

呆れたように航平がそう言うとしゃがみ込む。私も航平の隣に座ると、色とりどりの手持ち花火の中からスパーク花火を手に持った。

「俺もそれにしよ。点けるな」

「えっと、点けたらどうしたらいいの?」

「それ俺に聞く? 課長に言いたかったこと言えば。代わりに俺がきいてやる」

「なんかやだな」

「じゃあ課長に告白(こく)る?」

「できるわけないじゃない」

もし私が想いを伝えたら香田課長はきちんと気持ちを受け止めた上で誠実に対応してくれるのだろう。

ちゃんと告白して失恋すれば今より気持ちは晴れやかになるのかも知れない。

でも課長からの返答がわかっていながら告白をしてまた一緒に働けるほど私の神経は図太くない。