「褒められると照れちゃって……私あんまり自分に自信ないんで」  

「謙虚で心根が真っすぐなところが水野のいいとこだな、っとこれはセクハラにはいらないよな?」

「えっと……ギリセーフです」

「良かった」

そう言うと香田課長はにこりと微笑み鞄を手に持った。

「じゃあ、また来週」

「はい、お疲れ様です」

私は誰も居なくなった事務所でようやく口角を下げた。

「今日はしんどかったな……」

ぽつりと心の中を吐き出せばそれだけで目の前のパソコン画面が滲む。これからもこの会社で働く限り、香田課長とは嫌でも顔を合わせる。これからも部下として後輩として香田課長と今までのように接することができるだろうか。  

(そのうち課長の前で泣いたりしたらどうしよう)

私は深いため息を吐きだすと鞄をもち事務所をあとにする。

(航平と約束してて良かったな)

きっとこのまま帰宅すれば泣いて朝を迎えるのが目に見えている。私が更衣室に向かっているとポケットの中のスマホが震え、見れば航平は間も無くコンビニに到着するとメッセージが入っている。

(急がなきゃ……)

私はさっと着替えて従業員出入り口から外へ出ると、航平と待ち合わせているコンビニに向かって早歩きで向かっていく。そしてコンビニの明かりが見えた瞬間、私は思わず呼吸を止めた。