「あの、……理仁……さん」

 二人が病室から出て来ると、待合室で真琴と待っていた咲結が遠慮がちに理仁に声を掛ける。

「何だ?」
「あの、中に入っても……大丈夫でしょうか?」
「……ああ、問題無い」
「ありがとうございます」

 朔太郎の元へ行きたかった咲結は病室へ入る許可を貰うや否や、早々に中へと入って行く。

「さっくん」
「……咲結」

 俯いていた朔太郎は咲結の声が聞こえると急いで目元を拭って顔を上げた。

「……さっくん……」

 ドアを閉めた咲結はその場に立ったまま名前を呼ぶだけで、何故か動こうとしない。

「どうした? こっちに来いよ」

 そんな咲結を不思議に思った朔太郎がいつも通りの笑顔を向けながら手招きをすると、

「……っ、さっくん!!」

 瞳に涙を溜めた咲結は勢い良く駆け出し、朔太郎の元で泣き出してしまった。

「咲結……泣くなよ」
「……っ、だって……だって……ッ」
「ごめんな、怖かったよな。巻き込んで……本当にごめん」

 咲結が泣いているのは馬宮に連れ去られた事や銃で撃たれそうになった事が怖かったからだと思った朔太郎。

 だけど咲結の胸の内は違うものだった。

「……っひっく……、違う……の。私が怖かったのは、……さっくんが、……っ、死んじゃったらって……思って……っ」
「……咲結」
「いなくなったら、やだから……っ、だからっ」

 咲結が怖かった事――それは自分が危険に晒されるよりも、朔太郎が怪我を負って動けなくなる事や、この世から居なくなってしまう事だったのだ。

 それを知った朔太郎は胸の奥がキュッと締め付けられるのと同時に、痛みはあるものの今すぐに咲結を自身の腕の中に抱き締めたくて、泣きじゃくる咲結の腕を引くと、自身の胸に引き寄せた。

「……っ、さっくん、怪我……」
「いい! 大丈夫だから、黙って。今はとにかく、こうしてたいんだ」
「さっくん……っ、」

 傷口は痛むはずなのに、今はそんな事はどうでもよくて、朔太郎は戸惑う咲結に言い聞かせると、咲結を抱き締める腕に力を込めた。

 そして、抱き締められた咲結は、なるべく朔太郎の傷に障らないよう気遣いつつも、彼の温もりを感じていた。