「さっくん、血が……」
「平気だって、こんなの、掠り傷……」
「嘘……だって、こんなに……」
「いいから、ここを離れるぞ」

 戸惑う咲結の手を掴んだ朔太郎は落ちていた銃を拾い上げて倉庫から離れようと歩く。

 けれど、

「逃げられると思うなよ、馬鹿が!」

 後ろから馬宮の声が聞こえてきた瞬間、彼がもう一つの銃を隠し持っていた事を悟った朔太郎。

「危ねぇ!」
「きゃあ!?」

 パンッと発砲音が聞こえたと同時に朔太郎が咲結に覆いかぶさる形で庇い、まともに銃弾を受ける事は免れたものの、

「くっ……」

 肩に銃弾が掠った朔太郎は苦痛に顔を歪めていた。

「死ねよ、クソどもが!」

 とにかく、咲結を守ろうと力の限りで彼女を抱き締め、銃弾を受ける覚悟で自身の身を犠牲にしようと構えていると、パンッパンッと別の方向から発砲音が聞こえてきた刹那、「うあっ」と声にならない声を上げた馬宮が倒れていく。

 そして、

「朔! 無事か!?」
「朔太郎!」

 焦りの表情を浮かべた理仁や朔太郎の兄である海堂(かいどう) 翔太郎(しょうたろう)が地面に倒れ込んでいる咲結と朔太郎の元へ駆け寄った。

「……理仁さん、……兄貴……」
「よく頑張ったな。翔、馬宮たちの方を頼む」
「はい」

 ひとまず朔太郎が無事だと分かり、ホッと胸を撫で下ろした理仁は翔太郎に指示を送る。

「……っ、さっくん……」
「咲結、泣くなよ……」

 理仁の手を借りて身体を起こした朔太郎を改めて見た咲結は、血だらけの彼の姿に涙を流した。

「だって、……血が……っ」
「平気だって、……掠っただけだから……」
「……っひっく……うう……っ」

 朔太郎は平気だと言うものの、このまま血を流し続ければ危険な事は誰が見ても分かる事。

「朔、お前はすぐに病院だ。真琴、手を貸してくれ! それと……咲結、だったな、お前も一緒に来てくれ」

 理仁は近くに居た組員の金井(かない) 真琴(まこと)に朔太郎の介助を頼むと、泣きじゃくる咲結に付いてくるよう声を掛ける。

「……っ、はい……」

 こうしてこの場を翔太郎や他の組員たちに任せた理仁は自身が運転する車で病院へと向かって行った。