後ろ手に縛られて床に横たえられた咲結は、恐怖に身体を震わせていた。

 それは、馬宮の事が怖いからというだけでは無い。

 馬宮を筆頭にこの倉庫に居る男たちを朔太郎が一人で相手をするのかもしれないと思うと、怖くて仕方が無いのだ。

(さっくん……お願いだから、一人でここへ来ないで……)

 そう願う咲結だけど、朔太郎は一人でこの場所へ向かって来ていた。


 時刻は午後三時。

 馬宮の指定した時間になるとすぐに倉庫の扉が開いていく。

 そして、

「きちんと一人で来たみたいだな? けど、お前やっぱ頭悪いよな。こんな中に一人で来たところで勝ち目無いって、考えりゃ分かるだろ?」

 朔太郎が一人で現れたのを見るや否や、嘲笑いながら彼との距離を詰めていく。

「ああ、そうだな。普通はこんなところに一人で乗り込んだりはしねぇよ。けどな、人質取られてりゃ、言われた通りにするしかねぇだろうが。咲結はどこだ?」

 朔太郎がザッと辺りを見回すも、咲結の姿が見えない事に若干の不安を募らせる。

「まあ、言う通りにしたみたいだから、会わせてやるか。おい、女を連れて来い」

 連れて来るよう指示を出された男が拘束された咲結と共に姿を見せた瞬間、朔太郎の怒りは一気に上昇する。

 それも無理は無い。

 髪は乱れ、左頬は赤く腫れ、着ているブラウスのボタンが途中まで外されている咲結の姿を目の当たりにして落ち着いていられる訳が無いのだから。

「……さっくん……」

 そして、朔太郎の姿を確認出来た咲結の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていく。

「咲結……ごめんな」

 悲痛な表情を浮かべながらポツリと呟いた朔太郎は馬宮の方へ視線を戻すと、

「お前だけは、絶対許せねぇ……咲結をあんな目に遭わせた事、必ず後悔させてやるからな」

 怒りでどうにかなりそうな感情をぐっと堪えつつ、聞いた事が無いくらいに低い声で馬宮に宣戦布告をした。

 けれど、馬宮の仲間は十数人程居る中、咲結という人質を取られている朔太郎は一人きり。

 この状況では当然勝ち目がない。

 そんな中で朔太郎が取った行動はというと、

「――許せねぇし、偉そうな事言った後でダセェかもしれねぇけど……馬宮、頼む、まずは今すぐ咲結を解放してくれ。これ以上怖がらせたくない。咲結を解放してくれるなら俺は、一切抵抗しない――殴るなり蹴るなりしてくれて構わねぇ。この通りだ、頼む」

 咲結を解放して欲しいとその場で土下座をして馬宮に頼み込むという行為だった。