咲結が囚われた事を知らない朔太郎はいつも大体時間通りに来る咲結が遅れている事に不安を募らせつつ、電話に出るのを待っていた。

「もしもし、咲結? 今どこに――」
『咲結ちゃんは今、俺と一緒に居るぜ、鬼龍の犬の海堂さん』
「……お前……馬宮(まみや)か? 何で、お前がこの電話に出てんだよ……」
『あはは、そんなの、いちいち答えなくても分かるだろ? 咲結ちゃんは今、俺の隣に居るんだよ、可哀想に、怯えてさぁ』
「テメェ……何で咲結を……」
『うるせぇなぁ、俺は今、彼女との時間を楽しんでんだ。邪魔すんな。返して欲しけりゃ、これから言うところに一人で来い。仲間を連れて来たり、サツにチクったら――この女、殺すから』
「おい馬宮! 咲結に手出すんじゃねぇぞ! 必ず一人で行くから、絶対に手を出すな! 傷付けたりしたら、許さなねぇからな」
『まあ、約束は出来ないけど、極力ね? あとは……咲結ちゃん次第かな? それじゃ、場所はメッセージで送るから』

 それだけ言うと、相手からの電話は切れてしまう。

 朔太郎は怒りに震えていた。

「咲結……」

 切れたスマホを無言で眺めていると、メッセージが届き、そこには場所と時間が記されている。

 電話で言われた通り、朔太郎は一人で向かうつもりでいた。

 けれど、これはあくまでも鬼龍組全体の問題で、本来ならば組長である理仁に報告をして指示を仰がなければならない。

 馬宮たちについては、鬼龍組でも行方を追っていた。

 ただ、ここ数日急に行方を眩ませていたのだ。

 勿論、朔太郎と関わりのある咲結の事も気に掛けていて、自宅周辺など、見回りは強化していたのだけど、今日は朔太郎とデートだと聞いていた事もあって見回りの指示は出ていなかったのだ。

(……馬宮はきっと、鬼龍組を、理仁さんを監視してる。動きがあれば、余計に咲結が危険に晒される……。報告するにしても、俺が乗り込む直前しかない……)

 悩みに悩んだ末、朔太郎は理仁たちには報告をせず、一人で咲結の救出へ向かう事を選んだ。