二人はまだ、キスをしてはいない。

 朔太郎が奥手だとか、咲結が拒んでいるとかそういう事では無いのだけど、ただただタイミングが無かったのか、そういう雰囲気になってはいなくて、あの時あの電話さえ無ければ、二人は初キスを済ませていたはずだった。

「……キス、どんな感じなんだろ……」

 交際経験の無い咲結は当然初めてなので、キスとはどんな感じがするのかと期待に胸を膨らませていた。

 そんな時、

「あ、そう言えば、来週の土曜日って、バレンタインだ!」

 ふと視線を移した先にあったカレンダーの日にちを確認した咲結は、来週がバレンタインである事に気付く。

 最近では優茉との事もあってそういう話題に触れもしなかった咲結はすっかり忘れていたのだ。

「私の馬鹿……、こんな大切な日を忘れるなんて……付き合って初めてのイベントだし、何かしたいな……」

 朔太郎と出逢い、友達になってからクリスマスや正月というイベントごとはあったものの、朔太郎が忙しかったので一緒に過ごす事は無かった咲結。

 けれど、恋人同士になってから初めてのイベントごととあって、バレンタインは何かしたい、出来れば一緒に過ごしたいと思った咲結はすぐに朔太郎に来週の土曜日の予定を確認した。

 すると、バレンタインだと気付いているのかいないのか分からない朔太郎から《分かった、その日は空けておく》という返信が届いた事で、咲結は何を作ろうか早速考え始めた。

「思えば、今までバレンタインとか興味無かったもんなぁ」

 彼氏もいないし、そもそも手作りはあまり得意では無い咲結はバレンタインとは無縁な人生を送ってきた。

「でも、今回は頑張ろ! さっくん、どんなのが好きなんだろ……。あ、そうだ! 真彩さんに相談してみよう!」

 それでも、朔太郎との初めてのバレンタインは何かを送りたかった咲結は、彼の好みを探るべく、連絡先を交換していた真彩に色々と相談する事にした。