あの一件から数日が過ぎた、ある日の放課後。

 帰ろうと校門を出て少し歩いた先で、どこか見覚えのある男数人が咲結の前に立ちはだかった。

「キミ、海堂 朔太郎と知り合いだよね?」
「……っ」

 話し掛けてきた男は先日朔太郎と対峙していたうちの一人で、咲結は身の危険を感じて身体が小さく震え出す。

「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

 柄が悪そうではあるものの、笑顔を見せるとそこまで悪人には見えず、この前の一件さえ無ければ素直に付いて行ってしまったかもしれない咲結も、相手が朔太郎の敵である事を認識している為、当然首を縦には振らない。

 ここは通学路で時折学生が通りはするも、関わり合いになりたくないのか皆避けるように別の道へ逸れてしまう。

 それを目の当たりにした咲結は助けを期待出来そうに無い事を悟ると、ひとまず今この状況をどう切り抜けるべきか頭をフル回転させていた、その時、

「おい! お前ら、何してんだよ!?」

 突然、誰かが怒りを露わにしながら咲結と男の間に割って入ってくる。

「今、俺のダチが先公と警察を呼びに行ってる。これ以上何かしたら、アンタらの方が不利なんじゃねぇの?」
「玉井……っ」

 咲結を助けに来たのは玉井で、咲結を庇うように相手の前に立つと、人を呼びに行っている事を告げて威嚇した。

「……はぁ、面倒だな……。まあいいや、またね、咲結ちゃん」

 相手の男は玉井の言葉にため息を吐くと、この場は不利だと諦めて立ち去るのだが、去り際に男が自分の名前を口にした事で名前を知られていると気付いた咲結は更なる恐怖を覚えて震えが止まらなくなった。

「橘、大丈夫か? 一体何なんだよ、あいつら」
「……う、うん……平気……」
「一度、学校、戻るか?」
「ううん、大丈夫……」
「……お前さ、何か、ヤバい奴と関わってんじゃねぇの?」
「そ、そんな事……ないよ」
「……けど、あいつら、普通じゃねぇだろ?」
「あの人たちは、知らない……」
「……まあいいや、とりあえず駅まで送る。行くぞ」
「え? で、でも、先生と警察、呼びに行ってるんでしょ?」
「あんなのハッタリに決まってんじゃん。話が通じ無さそうならお前連れてすぐ逃げるつもりだったけど、諦めてくれて良かったぜ」

 そう笑いかける玉井だが、彼もまた、少しだけ恐怖を感じていた。

 けれどそれを咲結に悟られないよう己を奮い立たせ、これ以上咲結が不安にならないよう努めて明るく振る舞っていた。