それから少しして、息を切らせた朔太郎が車へ戻って来る。

「咲結!!」
「さっくん?」

 戻って来た事を確認して鍵を開けると、勢いよくドアが開かれて名前を呼ばれ、それにびっくりした咲結は戸惑うばかり。

「咲結、お前何であんな所に居たんだよ!?」
「あ、ご、ごめんね……その、ここで待ってる時、優茉が……友達が通りがかって、駅の方へ歩いて行くから、気になっちゃって……」
「だからって……あの場で俺の名前を呼んじゃ駄目だ! あれでお前が俺と関わりあるって、相手にバレちまった……」
「ご、ごめん……」
「……いや、きちんと説明しとかなかった俺にも責任あるから、咲結を責めるのは違うよな……俺の方こそごめん……だけど、気をつけてくれ、今後ああいう時は俺を見掛けても名前を呼んだり、傍に来たりっていうのは絶対するな。そうじゃねぇと、対峙してた相手がヤバい奴らだった時、お前の立場が危うくなる。俺や鬼龍組を良く思わない連中は沢山いるから……」
「う、うん……分かった」

 どうやら朔太郎は先程の騒ぎの中で咲結が自分の名前を呼んだ事で対峙していた相手に顔を覚えられ、彼女が危険に晒されるかもしれない事を心配していたようなのだが、咲結にはそれがどんなに重大な事かイマイチ想像し難いものだった。

「あの、それでもう大丈夫なの? さっき一緒に居た人、怪我してたみたいだけど……」
「ああ、あの程度なら問題無い。自分で帰れるって言うから車まで送って来た」
「そ、そうなんだ……」

 朔太郎は『あの程度』と言っているけれど、一緒に居た相手の怪我は咲結からすればそれなりに酷い状態だったと思うのだが、朔太郎が問題無いと言うならば平気なのだろうとそれ以上言葉を続ける事は無く、この日はそのまま自宅まで送ってもらって別れた。