「……そっか、分かった。それじゃあ付き合うか、俺たち」
「う、うん! それって、彼氏と彼女って事でいいんだよね?」
「それ以外にあんのかよ?」
「いや、無いけど」
「だろ?」
「うん」

 咲結は嬉しさでいっぱいだったのだけど、何だか流れるように付き合う事になったので都合の良い夢を見ているのかと不安になっていた。

 そして朔太郎もまた、付き合う事が初めてなので、付き合う宣言をしたはいいもののこれからどうするべきか悩んでいた。

「あ、そうだ! ひとまず報告だ!」
「え?」
「姉さんに報告しないと! 心配してくれてんだ、やっぱり報告はしないとだろ?」
「う、うん?」
「行くぞ」
「え、あ、ちょっと、さっくん!?」

 そこで、朔太郎の脳裏に浮かんだのは真彩の顔。

 咲結との事を気にしていた彼女には真っ先に報告すべきと思った朔太郎は戸惑い気味の咲結を連れて部屋を出て行った。

「姉さん、ちょっといいッスか?」
「朔太郎くん? どうぞ」

 真彩の部屋の前にやって来た朔太郎は声を掛け、返事を待ってドアを開ける。

「あら、咲結ちゃんも一緒なの? どうかした?」

 ドアを開けると、悠真が宿題をしている横で理真を抱いた真彩が二人を出迎えた。

「姉さん、俺ら、付き合う事になりました!」
「あら、そうなの?」
「は、はい……そう、なりました」
「そっか。二人がそれでいいと思ったなら、私は何も言わないわ。二人を応援する。何か困った事があったらいつでも相談してね、咲結ちゃん」
「はい、ありがとうございます」

 咲結は思う。

 自分を心配してくれた上で、朔太郎の事は諦めるべきだと話してくれた真彩はとても良い人だと。

 そして、そんな人たちが極道の世界を生きている事がイマイチ信じられなかった。


 極道の世界、果たしてそれがどのようなものなのか、朔太郎や真彩が心配するくらいの怖い出来事が本当に起きるものなのか半信半疑だった咲結だけど、朔太郎と付き合うという選択をした彼女は、これから嫌という程その世界の恐ろしさを知る事になるのだった。