「……さっくん?」

 突然の事に、咲結は固まっていた。

(え? 私、今……さっくんに、抱き締められてる?)

 何故このような事態になっているのか、頭が追いついていないのだ。

「咲結、ありがとう。お前のその気持ち、すげぇ嬉しい。ぶっちゃけ俺さ、咲結の事、結構気になってんだと思う」
「え?」
「これが好きって感情かはまだ分からねぇけど、極道の人間だって話せなかったのは、お前に嫌われたくなかったから。会えなくなるのは、嫌だった」
「さっくん……」

 朔太郎はこれまで恋愛という恋愛をした事が無かった。決してモテなかった訳ではないけれど、興味が無かったのだ。

 学生時代に告白をされた事もあったけれど、当時、女は煩くて面倒な生き物だと思っていたから冷たくあしらっていた。

 鬼龍組に入ってから一度だけ恋愛をした事はあったものの、駄目になって以来、慣れる事に手一杯という事もあって恋愛に興味を示す暇も無かった。

 それに、仕事以外で唯一異性との交流があったのは、真彩だけだった。

 強いて言うなら真彩のおかげで女へのイメージが、そして、大好きな理仁と真彩の幸せそうな姿を間近で見てきたおかげで恋愛へのイメージも変わっていた。

 そんな朔太郎が初めて異性に嫌われたく無いと思った相手が咲結だった。

「……さっくん、私、さっくんと……友達以上の関係に、なりたい……」

 咲結は言わずにはいられなかった。

 朔太郎も同じ気持ちでいてくれていると知ったから。

「……俺、上手く付き合える自信……ねぇよ? 俺のせいで辛い思いするかもしれねぇし……危険な目にも遭うかもしれない。それでも、後悔しないか?」

 友達以上という関係になる事に色々と不安のある朔太郎の問い掛けに、咲結は、

「しないよ、後悔なんて。だって私は、さっくんの事が大好きだから!」

 そう迷う事なく答えた。