「咲結、待たせたな」
「ううん、私も今さっき着いたところだから」
「そうか? ま、乗れよ」
「う、うん……お邪魔します」

 駅に着くと、丁度いいタイミングで朔太郎と合流する事が出来た咲結は促されて車に乗り込んだ。

「で? 話って何だよ?」

 咲結がシートベルトを締めたタイミングで車を走らせた朔太郎は、前を向いたままそう問い掛けた。

「あの……その……」
「ん?」

 問い掛けられた咲結は、どう切り出すべきか迷い、なかなか言葉に出来ずにいる。

 そんな彼女の様子から余程言いづらい事なのかと思いつつもう一度問いかけようとすると、

「……さ、さっくんって……、子供いるの!?」
「――はぁ?」

 突然の咲結の質問に驚いた朔太郎は、丁度赤信号で引っかかったタイミングという事もあり、何言ってんだコイツと言わんばかりの表情を浮かべながら咲結の方に顔を向けた。

「何なんだよ、いきなり。子供も何も、俺、結婚してねぇし、この前も言ったと思うけど、彼女もいないんだけど?」
「あ、そ、そうだよね。ごめん、話が飛び過ぎた」

 朔太郎の言葉で、自分が飛んでもない質問をしたと気付いた咲結は謝りながら一旦深呼吸をすると、

「……その、実は……ね、昼間、繁華街でさっくんを見かけたんだ」
「昼間に、俺を?」
「うん、それでその時、さっくんが女の人と、男の子の三人で居たから……」

 繁華街で見かけた事を話し、相手が誰なのかを問いかけようとすると、

「ああ、あれね……つーか、あれ見て咲結は俺に子供がいると思った訳ね。ははっ」

 何で突拍子の無い質問をして来たのかが分かった朔太郎は笑いを堪えきれなかったのか、可笑しそうに表情を緩めながら、

「あれは、俺の尊敬する人の奥さんと、その子供。俺は送迎役で一緒に居ただけだよ」

 事の次第を説明した。

「そ、そうだったんだ……ごめん、私勘違いして……」
「いや、別に良いけど。まあ、今まで考えもしなかったけど、傍から見ればそういう風に見えるのかもしれねぇな」

 朔太郎から聞いて女性は恋人じゃない事が分かりひと安心したものの、尊敬している人の奥さんだからなのか、あの優しげな眼差しについては未だに気掛かりだったりする。

(……本当に、尊敬する人の奥さんってだけなのかな? 何だか家族みたいに親密そうだったけど……)

 まだまだ気になる事は沢山あるけど、聞いてウザがられても嫌だと思った咲結はそれ以上質問する事はしなかった。