「やっと諦めたぜ。良かったな」
「あ、は、はい……」

 チャラ男たちが立ち去り残された咲結は赤髪男に声を掛けられると、先程の言動を思い出したせいか少しだけ萎縮してしまう。

 赤髪男は咲結が怯えていることに気づくと、

「怖がらせて悪かった! お前には何もしねぇから、そう怯えるなよ」

 申し訳なさそうに頭を下げて謝った。

「い、いえ……そんな……。寧ろ、助けてくれてありがとうございました、本当に助かりました」

 これには咲結も予想外だったのか謝られた事に驚くばかり。まだお礼を言っていないと気付いて慌てて感謝の思いを口にした。

「良いって。困ってる奴を放っておけなかっだけだし、それに、ああいう奴らはいけ好かねぇからさ」

 一見ナンパ男たちと変わりのないチャラい男なのかと思っていた咲結は彼の言葉に胸を打たれた。周りは皆、関わりたくなくて見て見ぬふりだったのに困っている人を放っておけなくて助けよう思うなんてなかなか出来る事じゃないと。

「ま、こういう所はああいう奴らが多いから気を付けろよ、それじゃあな」
「あ、あの……お名前、聞いてもいいですか?」
「え? 俺?」
「はい。あ、私は橘 咲結って言います!」
「あー、俺は海堂(かいどう) 朔太郎(さくたろう)だ」
「海堂さん、本当にありがとうございました」
「良いって。それじゃあな」
「はい、さよなら」

 別れ際、再度お礼を口にした咲結に笑いかけた朔太郎はひらひらと手を振ると、人混みの中に消えていく。

「……海堂さん、か」

 ただナンパから助けてもらっただけの関係。恐らくもう会う事はないだろう。

「見かけによらず、良い人だったなぁ」

 けれど、どこかでまた会えたらいいなと思いながら咲結は家路を急ぐ為、朔太郎とは反対方向に歩いて行き人混みへと消えていった。