「あの、海堂さん……」
「そのさ、『海堂さん』っての止めねぇ? 俺あんまり苗字で呼ばれねぇから違和感しかねぇの。朔太郎でいいよ」
「え!? いや、でも……」
「俺はお前の事、咲結って呼んでんだから咲結も名前で呼んでいいって」

 朔太郎の言葉に驚き焦る咲結。

 苗字は呼ばれ慣れないとの事で名前で呼んでくれという本人たっての希望なので無下にも出来ず、こうなると名前で呼ぶ選択肢しか残されていない。

「じゃ、じゃあ、朔太郎……さん?」
「うーん、何かまだ堅苦しい感じだから呼び捨てで良いって」
「いや、流石に呼び捨てでは呼べないです」
「気にするなって。それと、敬語もいらねーって」
「えぇ!?」
「ほら、呼び捨てで呼んでみ?」

 百歩譲って敬語は使わないで話せるとしても、やっぱり年上の人を呼び捨てで呼ぶ事に躊躇する咲結は困った表情を浮かべている。

(どうしよう、何て呼べばいいの?)

 本人の希望通りにするべきか、それとも「さん」付けで呼ぶべきか悩んでいると、咲結は何かを閃いたようで、

「それじゃあ、『さっくん』って言うのはどう? あだ名なら呼びやすい気がする!」

 愛称で呼ぶ事を提案した。

「さっくんって……。さん付けよりはマシか? まあ、咲結がそれでいいならいいよ」
「ホント? それじゃあ、さっくんって呼ぶね!」

 先程までの緊張していた咲結とは違い緊張が解れたのか、笑顔を見せる彼女に朔太郎の口角は微かに上がっていた。