「サンキューな」

 咲結からコーラの缶を手渡された朔太郎はプルタブを開けると、勢いよく喉へ流し込んでいく。

 どうやら本当に喉が乾いていたようで、良い飲みっぷりだった。

「……あの、海堂さん……」

 しかし、どうにも納得のいっていない咲結の表情は晴れず、連絡先も聞けないでいる彼女は言葉を詰まらせたまま。

 何か言いたい事があると直感してはいるもののそれが何なのか分からない朔太郎もまた、どうしようかと頭を悩ませていた。

「そういえば咲結、一緒に居た友達はどうしたんだよ?」
「え? あ、ちょっと用があるみたいで……帰る事になっちゃって……」
「ふーん? じゃあお前ももう帰るだけなのか?」
「は、はい」
「それじゃあ家まで送ってやるよ」
「え!?」
「車で来てるし、ここでまたお前を一人にすると変な奴に絡まれそうだしさ、危なっかしいし心配だから送ってくよ」

 そんな朔太郎の言葉を聞いた咲結は驚きながらも、まだ一緒に居られるという喜びが大きく、笑顔になった。

「あの、それじゃあお言葉に甘えて、よろしくお願いします」
「よし、じゃあ行くか」
「はい」

 ひとまず車へ向かう事になった二人は未だぎこちない雰囲気のまま、駐車場へと歩いて行った。

「咲結はどの辺に住んでるんだ?」
「あ、M町です」
「ああ、その辺か。俺が行く所の途中だから丁度いいな」
「そうなんですね」

 車へ乗り込み自宅のある町名を答えると、朔太郎の行先の途中だと分かった咲結は安堵する。

(良かった、遠回りにならないみたいで)

 そんな事を思いながらシートベルトを締め、改めて今の状況を考えてみると、咲結の鼓動は徐々に速まりつつあった。

(っていうか、これって凄く緊張するシチュエーション……)

 これまで異性と交際経験の無い咲結は当然家族や親戚以外の異性が運転する車の助手席になんか乗ることも無いので、今この状況にこの上なく緊張していたのだ。

(しかも、高級車だよね、これ……)

 車の種類に疎い咲結にはイマイチ分からないものの、乗っている車が高そうな物である事だけは想像がついていた。

「どうした? 何だか静かだな」
「え? そ、そうですかね?」
「もしかして緊張してるのか? もっと楽にしてねぇと疲れるぞ」
「は、はい。その、何て言うか、お父さん以外の男の人が運転する車に乗る事なんて無いから……何だか不思議な気分で……」
「へぇ?」

 緊張する咲結とは対照的に朔太郎は全く動じていない。

 その事から女慣れしているのかもと思う咲結の心中はすごく複雑なものだった。