「咲結」

 周りの視線を全く気にしない朔太郎は店に入るとそのまま咲結と優茉が座る席までやって来た。

「な、何ですか?」

 いきなりの事に驚き、たじろぐ咲結が警戒心剥き出しで問い掛けると、

「昨日は悪かった!」

 そう一言口にしながら勢いよく頭を下げた朔太郎に咲結は勿論周りも呆気に取られていた。

「ちょ、ちょっと、何なんですか……」
「昨日はお前の気持ちも考えないで酷い事言っちまった! ごめんな、配慮が足りなかった!」

 優茉や周りの人たちは何の事だか分からず、ただ二人のやり取りに視線を向け続ける中、注目を浴びている事に耐えられない咲結は、

「も、もういいです! 怒ってないから謝らないで! 頭を上げて下さい!」

 周りの視線から逃れたい一心で朔太郎に頭を上げるようお願いすると、

「本当か? 許してくれるんだな? 良かった」

 顔を上げた朔太郎は許して貰えたのが嬉しいのか、満面の笑みで咲結を見た。

 そんな無邪鬼な表情を浮かべた朔太郎を前にした咲結の鼓動はトクンと跳ねる。

(な、何? この胸の高鳴りは……)

 思いがけない胸の高鳴りに戸惑う咲結をよそに朔太郎は、

「それじゃ、これからは気をつけろよな。咲結」

 ポンと手を頭に乗せて一言言うと、相変わらず周りを気にする様子もなく意気揚々と店を出て行った。

「咲結、もしかして彼が例のナンパから助けてくれたっていう? ……って、咲結、アンタ顔赤いわよ?」
「……優茉、私、変かも」
「え?」
「胸の奥がもの凄く、キュンってなった……」
「それって……」
「いやいや、でも有り得ないよ、そりゃ助けてくれたし良い人だけど、昨日の発言はムカついた……今は謝ってくれたけど……。それに、なんて言うか……私のタイプとは違うもん……」

 優茉の言いたい事が分かった咲結は勢いよく否定するも、頭の片隅では感じていた。

 自分が理想とはちょっと違う朔太郎に惹かれている事に。