(もう嫌! 男なんて嫌い! 結局理想に合う人なんていないんだ!)

 男絡みで嫌な事続きの咲結は暫く男と関わりたくないと思いつつ、怒りが治まらないまま帰路に着いた。

 一方、残された朔太郎はというと、

「……何だよ、あの態度……。俺、そんなに悪い事言ったか?」

 言い逃げのような形で咲結に去られた朔太郎は何故彼女が怒ったのか分かっておらず、イマイチ腑に落ちないと言った表情を浮かべている。

「朔、お前こんなところで何つっ立ってるんだ?」

 そこへ声を掛けて来たのは長身細身で程よい筋肉質をした三十代くらいの黒髪短髪の男で、一見物腰が柔らかく優しそうに見えるが、右手の甲には龍の刺青が入っている。

「あ、理仁さん、お疲れ様っス」

 そんな彼は朔太郎の上司で居候先の家主でもある鬼龍(きりゅう) 理仁(りひと)

 理仁は【株式会社KIRYU】という様々な業種に名を轟かせていて国内で知らない者はいない大企業の経営者なのだが、理由があって社長という立ち位置ではなく、あくまでも裏方として経営業に携わっている。

 そして私生活では美人な妻と可愛い子供が二人いるという。

「こんなホテル街で、お前は何やってんだ? まさか、ナンパでもしようってんじゃねぇだろうな?」
「まさか! 違いますよ! 駐車場に向かう途中で男女の言い争う声を聞いたんで来てみたら高校生の男が女の子を連れ込もうとしてて、それを助けただけっス」
「ほう? で、助けた女は?」
「何か、怒って走り去って行きました」
「はあ? 助けたんだろ?」
「それはそうなんっスけど……」
「お前、何か余計な事でも言ったんじゃねぇのか?」
「いや……俺はただ、良く知りもしない男とこんなホテル街に来るなって注意しただけで……」

 という朔太郎の言葉を聞いた理仁は状況を理解したようで、朔太郎の頭に軽く拳を落とした。

「痛っ! な、何するんっスか、いきなり……」
「お前なぁ、そりゃ相手の女は怒るだろう。経緯はどうであれ、連れ込まれそうになったのなら怖かったはずだ。そこは優しい言葉を掛けてやるのが正解だろうよ」
「……すいません……」
「俺に謝ってどうする。まぁもう会う事はねぇかもしれねぇが、もし次会う事があったら謝っておけよ」
「はい、そうします」

 理仁に言われて自分が間違っていた事が分かり咲結に悪い事をしたと項垂れながら、朔太郎は駐車場へと向かって行った。