「なんか緊張するけど…大事なことだもんね」
怜と澪が初めて魔獣を倒す少し前の事。木原家のルイスの自室の扉の前。
魔獣退治に出かける前に澪はルイスに手紙を渡そうとしていた。
ずっとどうやって渡そうか考えた結果、出かける直前にルイスの部屋の扉の隙間に入れることにした。直接渡すという選択は緊張が邪魔して最初から除外されていた。
(直接ルイスさんに渡したらなんて言われるか怖い。幾ら分かっていたことだとしても)
ふぅーっと息を吐き、決意を固めた表情で持っていた手紙を扉の下の隙間に入れた。何を言わずに去ることに罪悪感を覚えた。けれど、もう咎められても立ち止まれない。
心臓をドキドキさせながら澪は怜が待つ玄関の方へと向かった。
彼の運命が変わる夜はあと少し。
(必ず生きて帰らなきゃ。私達にはやる事が沢山ある)
自室で仕事をしていたルイスは、扉の方で小さな物音したのを聞いた。扉の方へ向かうと扉の隙間にねこととかげのキャラクターが描かれた薄い紫色の手紙が挟まっていた。
ルイスは驚く事なくその手紙を手に取り封を開ける。もう手紙の内容は予想はできていた。
《今夜決行します。
今回の魔獣については調べはもうついているので安心してください。
彼ならきっとやり遂げる筈です。怜さんを信じてあげてください。
そして、もっと強くなって、私達で必ず露華さんの呪いを解きます。約束します。 島崎 澪》
手紙を読んだルイスは深くため息をついた。まだだと思っていた日が遂に来たのだ。現実を受け入れなければと。
(分かっていたとはいえやっぱり辛いなぁ…)
ルイスは机に戻り、机の上に置いてある写真立てを手に取り眺める。写真に写っているのはまだ小さい頃の莉奈と怜、そして、ルイスと眠りにつく前のお腹の大きい露華の写真だった。萊が生まれる少し前に撮られた写真。
こんな未来になるなんて想像もしていなかった明るかった頃の過去が詰まっている。
すぐ横の少し開いたガラス扉から下を見ると、怜と澪がどこかに歩いて行くのが見えた。
本当は自分達で終わらせる筈だったモノが自分の子の代まで影響してしまったショックは大きい。
(僕がもっと強ければ…露華も…)
どんなに後悔しても過去は変えられない。カイと呼ばれた瘴気の元凶を倒す手立てとルイスと露華の明暗は若き2人に託されたのも。
もう一度短くため息をつくとガラス窓からぬっとふっくらした茶トラの猫が入ってきた。首には鈴付きの赤い首輪が括り付けられていた。
「フータ!どこに行ってたんだい?莉奈と萊が心配してたんだぞ?」
「なーご」
フータと呼ばれたその猫は嬉しそうにルイスの足元に擦り寄る。ちりんと鈴の音が心地よく響く。ルイスはフータの背中をゆっくりと摩る。
ぴょんっとルイスの膝に飛び乗りにゃあっと一言鳴いて丸まった。
ルイスはフータを撫でながら彼が久々に家に帰ってきた訳を悟った。
「……フータが帰ってきたってことは…僕らも行かなきゃダメってことだね?そうだろ?」
「んにゃあ」
膝の上でのんびりしているフータを抱き上げ立ち上がり自室を出た。
ゆったりとするフータとは対照的にルイスは精悍な面持ちで外に向かう。
すると、たまたま廊下を通りかかった莉奈に呼び止められた。
「パパ?どこ行くの…ってフーちゃん!!いつ戻ってきたの?!」
「つきさっき僕の部屋のガラス窓からぬっとね。どこも怪我がなくってよかったよ」
「んにゃ〜」
「もう!フーちゃん!萊も私も心配してたんだから!!」
ルイスの腕の中にいるフータは久々の帰宅に安堵している莉奈を見て眠そうに欠伸をする。彼女の心配の気持ちなんてお構いなし、我が道をゆくフータはまたどこかへ行ってしまうだろう。帰ってくるのはルイスに用がある時か餌と木原家が恋しくなった時。
もー分かってる?っと心配の声を漏らす莉奈にルイスは優しく諭した。
「まぁ、許してあげて。フータにも色々あるんだよ」
「…それもそうだけど、パパこれからフーちゃん連れてどこ行くの?怜と澪ちゃんもこんな時間なのに出かけちゃったし。止めなかったの?」
「ちょっとね散歩にね。怜達のことは大丈夫。ちゃんと帰ってくる筈だから」
「えー…でも、まだ公園の猟奇事件の犯人がまだ捕まってないのに心配。大丈夫かな…」
「これから僕も行くし、途中で会うかもしれないから。それじゃ行こうかフータ」
「本当に気を付けてね。夜だから余計に危ないから」
「分かってる。行ってくるよ」
心配する莉奈に見送られながらルイスとフータは家を後にする。
"莉奈に嘘をついてしまった。本当は散歩なんかではない"と心を痛めた。けれど、その嘘は愛する家族を守る為のモノ。澪からもらったあの手紙を読んでから余計にそう思えてしまう。
腕の中で安心しきるフータを見て少し心が和らぐ。
ルイスにとっては何度も経験してきたものだがどうしても慣れない。それは露華がまだ眠りにつく前から変わらない。
憂鬱な気持ちでしばらく歩いていると、突然、ズドンと重い何かがおもいっきり地面を踏む音が周りに響き渡った。
ルイスは面倒臭そうに音があった方に身体を向けた。そこにいたのは黒い影で作られた大きな4足で2本の角を持った化物が背後に立っていた。
「ルイス・アーノルド。お前の息子はどこだ?この先にいるとは聞いたが?」
「……貴様が知る必要なんてないだろ?一体何が目的だ?」
「"あの方"の部下様が探してるんだ。お前の息子の身体が必要なんだとよ」
「やっぱりな。お前の作りが"カイ"とは違う。純粋な魂から作られた魔獣じゃない。穢れきった魂で象られた獣物」
「は!!あんなへなちょこと一緒にするな!!あんな結晶がある魔獣は出来損ない!!あの方ならこんなヘマしねーよ!!」
「で?イキがってるところ申し訳ないけど、その部下様っていうのは誰だ。お前を作り出した奴。作り慣れてないから完全に魔獣になりきれてないようだけど」
「教えるかバーカ!!貴様らのせいでこうなったんだろ!!お前と木原露華を殺し、お前の息子の身体さえ手に入ればあの方は復活する!!そうすれば俺も…!!」
「……バカバカしい…」
のんびりしていたフータがルイスの腕の中から飛び降り、魔獣に向かってフーッと毛を逆立てながら激しく威嚇する。常に冷静なルイスとは対照的。
ルイスはそんなフータを見てフフっと微笑を浮かべる。魔獣を煽るのには十分だった。
「露華も殺させないし、怜も守りきる。どんな手を使ってでも。貴様らの目論みは必ず砕ける」
「ケッ!言ってろ!どうせテメーはここで俺に殺されるんだ!!残念だったな!!お前らの希望の光は俺に消されるんだ!!」
「言いたいことはそれだけかい?」
「は?部下様の言う通り本当意味わかんねー野郎だな。とっとと殺してオメーの息子を捕らえねーとな!!!」
魔獣はルイスとフータに向かって突進してきた。
それでもルイスは冷静のまま目を閉じる。
すると、威嚇していたフータの身体が漆黒の光を放ち鞘に収まっている太刀へと変身しルイスの左手に握られる。
右手で柄を握ると突進してくる魔獣の方へ歩いてゆく。鞘から太刀を抜き目を開いた。
「輪廻を絶ち闇に沈め。絶日・影月」
「何?!あぎぁ!!!!」
黒く染まった刃はたった一振りで魔獣を切り裂く。筋肉質の大きな肉体は黒い斬撃でズタズタに斬り刻む。絶叫を上げる余裕すら与えない。
血一つ付いていないルイスの太刀は妖しく黒光り月を照らす。絶命したと同時に太刀は再び鞘の中に収まった。
さっきまでルイスを殺そうと息巻いていた魔獣の思想はあっけなく漆黒によって砕け散った。黒い影で作られたそれは血も一滴も残さないまま闇夜へ消えた。
「ごめんねフータ。こんな雑魚を斬らせて。でも、家族を守る為なんだよ」
鞘に収まっていた太刀は元の猫のフータの姿に戻っていた。一仕事終えたフータ満足そうに"にゃあ"っと鳴いた。ルイスはしゃがみ込み、フータの頭を撫でて彼を褒め称えた。"武器人"の力を持ったフータはとても誇らしげだった。ちりんと可愛げな首輪の鈴の音がとても心地よかった。
勝利に浸っていると、突然殺意を感じ取り、優しげな目でフータを見ていたルイスの目が気配を感じた方に向ける。凍てつく軽蔑を込めた目に切り替わる。
(あんな小物を寄越してきたくせに自分達は高みの見物。本当、《《アイツ》》そっくりな部下だこと)
ルイスが睨んでいた先にいた2人組の人物は悔しそうに彼らを見ていたが、今の自分達では奴には敵わないという事、これ以上此処に留まる必要はないと逃げるようにその場を去った。ここから飛び出してルイスにを斬り殺したいという衝動を抑えながらの屈辱の撤退でもあった。
殺気が消えてもう襲ってこないと悟ったルイスはフータを抱え立ち上がる。一先ずは息子への脅威は一つ減らせたと安堵した。
(後はあの2人がカイが生み出した魔獣を倒して無事に帰ってくることを祈るだけ。僕が助けるわけにはいかない)
フータは、早くお家に帰ってゴロゴロしたい、頑張ったご褒美に大好物のにゃーるというペースト状の猫用の餌が欲しいとうるうると目で訴えていた。
なんとなくその訴えを悟っていたルイスは"早く帰らなきゃね"と微笑みフータを抱き抱え我が家へと歩みを進めた。来た時とは違って憂鬱さは無くなり、一つやるべき事を終えた満足がない表情だった。
(怜も澪ちゃんもドロドロになって帰ってくるだろうからお風呂沸かし直してあげないとね)
きっと、2人はやり遂げると見越しての予想。そのは見事な当たる。
ルイスが家路に着いたから数時間後に帰ってきた怜と澪を何も言わずに迎え入れた。無事に帰って来た2人への安堵、これから彼等に待ち受けている運命への不安が入り混じる時間でもあった。
これは、ルイスと飼い猫フータの特別な秘密と怜と澪への導きの光。
怜と澪が初めて魔獣を倒す少し前の事。木原家のルイスの自室の扉の前。
魔獣退治に出かける前に澪はルイスに手紙を渡そうとしていた。
ずっとどうやって渡そうか考えた結果、出かける直前にルイスの部屋の扉の隙間に入れることにした。直接渡すという選択は緊張が邪魔して最初から除外されていた。
(直接ルイスさんに渡したらなんて言われるか怖い。幾ら分かっていたことだとしても)
ふぅーっと息を吐き、決意を固めた表情で持っていた手紙を扉の下の隙間に入れた。何を言わずに去ることに罪悪感を覚えた。けれど、もう咎められても立ち止まれない。
心臓をドキドキさせながら澪は怜が待つ玄関の方へと向かった。
彼の運命が変わる夜はあと少し。
(必ず生きて帰らなきゃ。私達にはやる事が沢山ある)
自室で仕事をしていたルイスは、扉の方で小さな物音したのを聞いた。扉の方へ向かうと扉の隙間にねこととかげのキャラクターが描かれた薄い紫色の手紙が挟まっていた。
ルイスは驚く事なくその手紙を手に取り封を開ける。もう手紙の内容は予想はできていた。
《今夜決行します。
今回の魔獣については調べはもうついているので安心してください。
彼ならきっとやり遂げる筈です。怜さんを信じてあげてください。
そして、もっと強くなって、私達で必ず露華さんの呪いを解きます。約束します。 島崎 澪》
手紙を読んだルイスは深くため息をついた。まだだと思っていた日が遂に来たのだ。現実を受け入れなければと。
(分かっていたとはいえやっぱり辛いなぁ…)
ルイスは机に戻り、机の上に置いてある写真立てを手に取り眺める。写真に写っているのはまだ小さい頃の莉奈と怜、そして、ルイスと眠りにつく前のお腹の大きい露華の写真だった。萊が生まれる少し前に撮られた写真。
こんな未来になるなんて想像もしていなかった明るかった頃の過去が詰まっている。
すぐ横の少し開いたガラス扉から下を見ると、怜と澪がどこかに歩いて行くのが見えた。
本当は自分達で終わらせる筈だったモノが自分の子の代まで影響してしまったショックは大きい。
(僕がもっと強ければ…露華も…)
どんなに後悔しても過去は変えられない。カイと呼ばれた瘴気の元凶を倒す手立てとルイスと露華の明暗は若き2人に託されたのも。
もう一度短くため息をつくとガラス窓からぬっとふっくらした茶トラの猫が入ってきた。首には鈴付きの赤い首輪が括り付けられていた。
「フータ!どこに行ってたんだい?莉奈と萊が心配してたんだぞ?」
「なーご」
フータと呼ばれたその猫は嬉しそうにルイスの足元に擦り寄る。ちりんと鈴の音が心地よく響く。ルイスはフータの背中をゆっくりと摩る。
ぴょんっとルイスの膝に飛び乗りにゃあっと一言鳴いて丸まった。
ルイスはフータを撫でながら彼が久々に家に帰ってきた訳を悟った。
「……フータが帰ってきたってことは…僕らも行かなきゃダメってことだね?そうだろ?」
「んにゃあ」
膝の上でのんびりしているフータを抱き上げ立ち上がり自室を出た。
ゆったりとするフータとは対照的にルイスは精悍な面持ちで外に向かう。
すると、たまたま廊下を通りかかった莉奈に呼び止められた。
「パパ?どこ行くの…ってフーちゃん!!いつ戻ってきたの?!」
「つきさっき僕の部屋のガラス窓からぬっとね。どこも怪我がなくってよかったよ」
「んにゃ〜」
「もう!フーちゃん!萊も私も心配してたんだから!!」
ルイスの腕の中にいるフータは久々の帰宅に安堵している莉奈を見て眠そうに欠伸をする。彼女の心配の気持ちなんてお構いなし、我が道をゆくフータはまたどこかへ行ってしまうだろう。帰ってくるのはルイスに用がある時か餌と木原家が恋しくなった時。
もー分かってる?っと心配の声を漏らす莉奈にルイスは優しく諭した。
「まぁ、許してあげて。フータにも色々あるんだよ」
「…それもそうだけど、パパこれからフーちゃん連れてどこ行くの?怜と澪ちゃんもこんな時間なのに出かけちゃったし。止めなかったの?」
「ちょっとね散歩にね。怜達のことは大丈夫。ちゃんと帰ってくる筈だから」
「えー…でも、まだ公園の猟奇事件の犯人がまだ捕まってないのに心配。大丈夫かな…」
「これから僕も行くし、途中で会うかもしれないから。それじゃ行こうかフータ」
「本当に気を付けてね。夜だから余計に危ないから」
「分かってる。行ってくるよ」
心配する莉奈に見送られながらルイスとフータは家を後にする。
"莉奈に嘘をついてしまった。本当は散歩なんかではない"と心を痛めた。けれど、その嘘は愛する家族を守る為のモノ。澪からもらったあの手紙を読んでから余計にそう思えてしまう。
腕の中で安心しきるフータを見て少し心が和らぐ。
ルイスにとっては何度も経験してきたものだがどうしても慣れない。それは露華がまだ眠りにつく前から変わらない。
憂鬱な気持ちでしばらく歩いていると、突然、ズドンと重い何かがおもいっきり地面を踏む音が周りに響き渡った。
ルイスは面倒臭そうに音があった方に身体を向けた。そこにいたのは黒い影で作られた大きな4足で2本の角を持った化物が背後に立っていた。
「ルイス・アーノルド。お前の息子はどこだ?この先にいるとは聞いたが?」
「……貴様が知る必要なんてないだろ?一体何が目的だ?」
「"あの方"の部下様が探してるんだ。お前の息子の身体が必要なんだとよ」
「やっぱりな。お前の作りが"カイ"とは違う。純粋な魂から作られた魔獣じゃない。穢れきった魂で象られた獣物」
「は!!あんなへなちょこと一緒にするな!!あんな結晶がある魔獣は出来損ない!!あの方ならこんなヘマしねーよ!!」
「で?イキがってるところ申し訳ないけど、その部下様っていうのは誰だ。お前を作り出した奴。作り慣れてないから完全に魔獣になりきれてないようだけど」
「教えるかバーカ!!貴様らのせいでこうなったんだろ!!お前と木原露華を殺し、お前の息子の身体さえ手に入ればあの方は復活する!!そうすれば俺も…!!」
「……バカバカしい…」
のんびりしていたフータがルイスの腕の中から飛び降り、魔獣に向かってフーッと毛を逆立てながら激しく威嚇する。常に冷静なルイスとは対照的。
ルイスはそんなフータを見てフフっと微笑を浮かべる。魔獣を煽るのには十分だった。
「露華も殺させないし、怜も守りきる。どんな手を使ってでも。貴様らの目論みは必ず砕ける」
「ケッ!言ってろ!どうせテメーはここで俺に殺されるんだ!!残念だったな!!お前らの希望の光は俺に消されるんだ!!」
「言いたいことはそれだけかい?」
「は?部下様の言う通り本当意味わかんねー野郎だな。とっとと殺してオメーの息子を捕らえねーとな!!!」
魔獣はルイスとフータに向かって突進してきた。
それでもルイスは冷静のまま目を閉じる。
すると、威嚇していたフータの身体が漆黒の光を放ち鞘に収まっている太刀へと変身しルイスの左手に握られる。
右手で柄を握ると突進してくる魔獣の方へ歩いてゆく。鞘から太刀を抜き目を開いた。
「輪廻を絶ち闇に沈め。絶日・影月」
「何?!あぎぁ!!!!」
黒く染まった刃はたった一振りで魔獣を切り裂く。筋肉質の大きな肉体は黒い斬撃でズタズタに斬り刻む。絶叫を上げる余裕すら与えない。
血一つ付いていないルイスの太刀は妖しく黒光り月を照らす。絶命したと同時に太刀は再び鞘の中に収まった。
さっきまでルイスを殺そうと息巻いていた魔獣の思想はあっけなく漆黒によって砕け散った。黒い影で作られたそれは血も一滴も残さないまま闇夜へ消えた。
「ごめんねフータ。こんな雑魚を斬らせて。でも、家族を守る為なんだよ」
鞘に収まっていた太刀は元の猫のフータの姿に戻っていた。一仕事終えたフータ満足そうに"にゃあ"っと鳴いた。ルイスはしゃがみ込み、フータの頭を撫でて彼を褒め称えた。"武器人"の力を持ったフータはとても誇らしげだった。ちりんと可愛げな首輪の鈴の音がとても心地よかった。
勝利に浸っていると、突然殺意を感じ取り、優しげな目でフータを見ていたルイスの目が気配を感じた方に向ける。凍てつく軽蔑を込めた目に切り替わる。
(あんな小物を寄越してきたくせに自分達は高みの見物。本当、《《アイツ》》そっくりな部下だこと)
ルイスが睨んでいた先にいた2人組の人物は悔しそうに彼らを見ていたが、今の自分達では奴には敵わないという事、これ以上此処に留まる必要はないと逃げるようにその場を去った。ここから飛び出してルイスにを斬り殺したいという衝動を抑えながらの屈辱の撤退でもあった。
殺気が消えてもう襲ってこないと悟ったルイスはフータを抱え立ち上がる。一先ずは息子への脅威は一つ減らせたと安堵した。
(後はあの2人がカイが生み出した魔獣を倒して無事に帰ってくることを祈るだけ。僕が助けるわけにはいかない)
フータは、早くお家に帰ってゴロゴロしたい、頑張ったご褒美に大好物のにゃーるというペースト状の猫用の餌が欲しいとうるうると目で訴えていた。
なんとなくその訴えを悟っていたルイスは"早く帰らなきゃね"と微笑みフータを抱き抱え我が家へと歩みを進めた。来た時とは違って憂鬱さは無くなり、一つやるべき事を終えた満足がない表情だった。
(怜も澪ちゃんもドロドロになって帰ってくるだろうからお風呂沸かし直してあげないとね)
きっと、2人はやり遂げると見越しての予想。そのは見事な当たる。
ルイスが家路に着いたから数時間後に帰ってきた怜と澪を何も言わずに迎え入れた。無事に帰って来た2人への安堵、これから彼等に待ち受けている運命への不安が入り混じる時間でもあった。
これは、ルイスと飼い猫フータの特別な秘密と怜と澪への導きの光。