深夜の公園。
5人組の青年達が1人のホームレスに激しい暴行を加えていた。
ホームレスの男が彼らに何かした訳でも金品目的でもない青年達の憂さ晴らしという快楽の為の身勝手な動機から始まったことだった。
「とっとと死ねよ!クソ浮浪者!!」
倒れ込むホームレスの男を高校生ぐらいの青年はギャハハっと楽しそうに笑いながら容赦なく蹴り上げた。痛がる男の姿に青年とその仲間達は更に嘲笑う。
「や、やめ、やめてくれ…」
「あぁ?ホームレスのくせに何指図してんの?」
これ以上痛めつけないで欲しいと懇願する男を無視して青年の仲間は暴行を続けた。青年はズボンのポケットからジッポライターを取り出し男にちらつかせる。
青年達は何も怖くなかった。自分達がまだ未成年で未来ある少年達だから捕まらないし寧ろ守ってくれると分かっていたからだ。
尚且つ被害者は身寄りのなさそうな浮浪者。歪みきった青年達にはうってつけの玩具に過ぎなかった。
カチッとライターの蓋を開けて火を灯す。火の光で照らされた青年の顔に男はさらに恐怖した。
「うわ。マジでやるの?」
「は?当たり前だろ?この街の汚物どもは払拭しなくちゃ」
「さすがヨリテル。やっぱ俺らとちげーわ」
ヨリテルと呼ばれた青年は躊躇なくライターの火を男の衣服に近づけ引火させた。恐怖に満ちた叫び声と共に燃え広がって服と皮膚は焼き爛れていった。
男の悲鳴を聞いても壮絶な光景を見ても原因を作った青年達はおもしろそうに笑っているだけだった。
もっと燃えろ、もっと苦しめと青年達は笑い転げた。
「これで一丁あがり♪次の浮浪者排除にいこうぜ」
「早く死ねよな〜」
「まっ!助けを呼んでも俺らまだ未成年だから何やっても許されるから無駄だけど」
火だるまと化した男は必死に青年達に手を伸ばしたが彼等は玩具を遊び飽きたかのように罵倒しながらその場を去っていった。
彼等に罪悪感というものは一切無い。
男の全身の皮膚は完全に焼き爛れてしまった。彼はもう助からないと既に悟っていた。
ただ普通に生きてきただけなのに、他のホームレスの仲間達と面白楽しく生きてきただけなのに何故こんな仕打ちを受けなければいけないのか。あの青年達を野放しにしたらまた被害が増える。このまま死んでしまうのは嫌だとそんな未練ばかりが男の頭を過ぎる。
(なんで……)
どうして自分だけこんな目に遭わなければならないのか。死にたくないという気持ちと青年達への恨みが男の中で入り混じる。
燃え盛る炎に焼かれる暑さと激しい痛みに苛まれながら男は意識を手放しかけた時だった。
「さっきのガキ共の親の方が見てみたいなぁ」
突然、青年達が去って行った方向に向かって彼等を蔑む言葉でぼやく声が聞こえてきた。
その声の主である男の目の前に現れたのは黒いコートを身に付けフードを深く被った初老ぐらいの男だった。
その男はため息を吐きながらゆっくりと屈み、死にゆくホームレスの男にそっと語りかけた。
「可哀想に。ただ自分にとっての幸せな時間を過ごしてきたのにな」
(え……?誰だ…?)
「あんな屑どもの格好の遊び道具にされて。許せないよな。まだ大人じゃないからって調子に乗った馬鹿は粛清しないと。そう思うだろ?」
「……あ、…ぁ…」
「お前が死んだ後もアイツらはお前と同じような境遇の奴を死至らしめるだろう。その前に我々で止めようではないか」
「…ぇ?」
「復讐と抑止。今のお前ならできる。私を信じてくれればな」
フードを被った男は手を差し出した。その男の顔はとても穏やかで"大丈夫。もうあなたを傷つけることはしない。私を信じて欲しい"と言っているように見えた。
ホームレスの男はその表情に嘘偽りはないと感じ取る。
彼はきっと一緒に自分をこうした奴等に罰を与えてくれる。そんな気がしてならなかった。
差し伸べられた手に必死に焼き爛れた手を伸ばす。
「たす…け…て…」
「ああ。助けてやるとも。私を信じろ」
全身を走る痛みを堪えながら差し出された手を握った。それと同時にホームレスの男は安心したかのようにゆっくりを瞼を閉じた。
フードの男はニヤリ笑った。
「後は私に任せろ。お前の怨念はすぐに報われるだろう」
フードの男のもう片方の手に握られていたおどろおどろしいオーラを放つ黒曜石の様な鉱物が不気味に輝いた。
「この瘴気がお前を救ってくれる力だ。受け取るがいい」
まだ炎が残る焼かれた男に黒い鉱物を近づけた。鉱物がズブズブと男の身体に埋め込まれてゆく。
怪しげな鉱物を与えた男はゆっくりと立ち上がり救いを受けた者の行く末を見守った。
「これからだ。ようやく始まるのだ。木原露華。俺を選ばなかった末路がな」
この世への未練と怒りが原動となって漆黒の鉱物の力が身体と思考の形を変えてゆく。男が発した愛憎が込められたその言葉が具現化した証でもあった。
これからどんな惨劇が起こるのだろうと考えると男は思わず笑ってしまった。
「殺せ。お前を見下してきた馬鹿共を。喰らい尽くせ」
巨大な爬虫類に似た化物に変貌したホームレスだった男は人間とは思えない叫び声を上げる。
焼き爛れた肌は白と黒のまだら模様の鱗の肌になっていた。
男が言った救いの力を得た者に怖いものなどなかった。失うものがない無敵の化物になった者に人を恐怖なんてとっくに失せていた。
そんな化け物が現れた平和だった街が鮮血に染まるまでそう時間はかからなかった。
「早く目を覚まして俺を止めてみろ。露華」
鮮血に苛まれてゆく街に希望の閃光を走る二つ星が現れるまでそう時間はかからなかった。その事をまだ愛憎に満ちた男は知る由もない。
どんなに今が暗闇でも必ず光は現れると–––––––
5人組の青年達が1人のホームレスに激しい暴行を加えていた。
ホームレスの男が彼らに何かした訳でも金品目的でもない青年達の憂さ晴らしという快楽の為の身勝手な動機から始まったことだった。
「とっとと死ねよ!クソ浮浪者!!」
倒れ込むホームレスの男を高校生ぐらいの青年はギャハハっと楽しそうに笑いながら容赦なく蹴り上げた。痛がる男の姿に青年とその仲間達は更に嘲笑う。
「や、やめ、やめてくれ…」
「あぁ?ホームレスのくせに何指図してんの?」
これ以上痛めつけないで欲しいと懇願する男を無視して青年の仲間は暴行を続けた。青年はズボンのポケットからジッポライターを取り出し男にちらつかせる。
青年達は何も怖くなかった。自分達がまだ未成年で未来ある少年達だから捕まらないし寧ろ守ってくれると分かっていたからだ。
尚且つ被害者は身寄りのなさそうな浮浪者。歪みきった青年達にはうってつけの玩具に過ぎなかった。
カチッとライターの蓋を開けて火を灯す。火の光で照らされた青年の顔に男はさらに恐怖した。
「うわ。マジでやるの?」
「は?当たり前だろ?この街の汚物どもは払拭しなくちゃ」
「さすがヨリテル。やっぱ俺らとちげーわ」
ヨリテルと呼ばれた青年は躊躇なくライターの火を男の衣服に近づけ引火させた。恐怖に満ちた叫び声と共に燃え広がって服と皮膚は焼き爛れていった。
男の悲鳴を聞いても壮絶な光景を見ても原因を作った青年達はおもしろそうに笑っているだけだった。
もっと燃えろ、もっと苦しめと青年達は笑い転げた。
「これで一丁あがり♪次の浮浪者排除にいこうぜ」
「早く死ねよな〜」
「まっ!助けを呼んでも俺らまだ未成年だから何やっても許されるから無駄だけど」
火だるまと化した男は必死に青年達に手を伸ばしたが彼等は玩具を遊び飽きたかのように罵倒しながらその場を去っていった。
彼等に罪悪感というものは一切無い。
男の全身の皮膚は完全に焼き爛れてしまった。彼はもう助からないと既に悟っていた。
ただ普通に生きてきただけなのに、他のホームレスの仲間達と面白楽しく生きてきただけなのに何故こんな仕打ちを受けなければいけないのか。あの青年達を野放しにしたらまた被害が増える。このまま死んでしまうのは嫌だとそんな未練ばかりが男の頭を過ぎる。
(なんで……)
どうして自分だけこんな目に遭わなければならないのか。死にたくないという気持ちと青年達への恨みが男の中で入り混じる。
燃え盛る炎に焼かれる暑さと激しい痛みに苛まれながら男は意識を手放しかけた時だった。
「さっきのガキ共の親の方が見てみたいなぁ」
突然、青年達が去って行った方向に向かって彼等を蔑む言葉でぼやく声が聞こえてきた。
その声の主である男の目の前に現れたのは黒いコートを身に付けフードを深く被った初老ぐらいの男だった。
その男はため息を吐きながらゆっくりと屈み、死にゆくホームレスの男にそっと語りかけた。
「可哀想に。ただ自分にとっての幸せな時間を過ごしてきたのにな」
(え……?誰だ…?)
「あんな屑どもの格好の遊び道具にされて。許せないよな。まだ大人じゃないからって調子に乗った馬鹿は粛清しないと。そう思うだろ?」
「……あ、…ぁ…」
「お前が死んだ後もアイツらはお前と同じような境遇の奴を死至らしめるだろう。その前に我々で止めようではないか」
「…ぇ?」
「復讐と抑止。今のお前ならできる。私を信じてくれればな」
フードを被った男は手を差し出した。その男の顔はとても穏やかで"大丈夫。もうあなたを傷つけることはしない。私を信じて欲しい"と言っているように見えた。
ホームレスの男はその表情に嘘偽りはないと感じ取る。
彼はきっと一緒に自分をこうした奴等に罰を与えてくれる。そんな気がしてならなかった。
差し伸べられた手に必死に焼き爛れた手を伸ばす。
「たす…け…て…」
「ああ。助けてやるとも。私を信じろ」
全身を走る痛みを堪えながら差し出された手を握った。それと同時にホームレスの男は安心したかのようにゆっくりを瞼を閉じた。
フードの男はニヤリ笑った。
「後は私に任せろ。お前の怨念はすぐに報われるだろう」
フードの男のもう片方の手に握られていたおどろおどろしいオーラを放つ黒曜石の様な鉱物が不気味に輝いた。
「この瘴気がお前を救ってくれる力だ。受け取るがいい」
まだ炎が残る焼かれた男に黒い鉱物を近づけた。鉱物がズブズブと男の身体に埋め込まれてゆく。
怪しげな鉱物を与えた男はゆっくりと立ち上がり救いを受けた者の行く末を見守った。
「これからだ。ようやく始まるのだ。木原露華。俺を選ばなかった末路がな」
この世への未練と怒りが原動となって漆黒の鉱物の力が身体と思考の形を変えてゆく。男が発した愛憎が込められたその言葉が具現化した証でもあった。
これからどんな惨劇が起こるのだろうと考えると男は思わず笑ってしまった。
「殺せ。お前を見下してきた馬鹿共を。喰らい尽くせ」
巨大な爬虫類に似た化物に変貌したホームレスだった男は人間とは思えない叫び声を上げる。
焼き爛れた肌は白と黒のまだら模様の鱗の肌になっていた。
男が言った救いの力を得た者に怖いものなどなかった。失うものがない無敵の化物になった者に人を恐怖なんてとっくに失せていた。
そんな化け物が現れた平和だった街が鮮血に染まるまでそう時間はかからなかった。
「早く目を覚まして俺を止めてみろ。露華」
鮮血に苛まれてゆく街に希望の閃光を走る二つ星が現れるまでそう時間はかからなかった。その事をまだ愛憎に満ちた男は知る由もない。
どんなに今が暗闇でも必ず光は現れると–––––––