「深い意味はないよ。僕はどちらかといえば縁の下で動くほうが得意で、だったら友也くんが向いてるんじゃないかと思っただけ」

たしかに、鴻上くんはムードメーカーだし周りをよく見ているし、部長に向いていると思う。
でも、鳰先輩も向いてると思うけどなぁ。

いつも落ち着いていて、しっかりしていて、頭も良い。
学校の成績が、二年間トップだと聞いた。

「それに、友也くんだけ目的が特殊だから──」
「あっ、鳰先輩!」

鳰先輩がなにかを言いかけたところで、別方向から声が割り込んできた。

ふり返ると、四人の女の子がこっちに向かって走ってきている。
歌劇部の子たちだ。

あっという間に、わたしたちを……というか、鳰先輩を取り囲んだ。

「今から先輩の部屋に行こうと思ってたんです」
「へえ、それはちょうどよかったね。でも、部屋の行き来は禁止されてるはずだけど」

鳰先輩がそう答えると、歌劇部の子たちは笑った。

「べつに、部屋に入るわけじゃないから大丈夫ですよ」
「お話したくて、呼びにいくだけだったので」

わたしなんて眼中にないのか、キラキラした笑みを鳰先輩だけに向ける彼女たち。

一方で、鳰先輩を見ると……うわぁ、あきらかに困ってる。
気遣いの鬼と評されるほど、女の子への接し方がていねいな鳰先輩でも、さすがに困るよね。