寝る部屋は、学年ごとに大部屋を割り与えられるんだけど、わたしだけひとり部屋を用意してもらったんだ。

鴻上くんが、女の子だからと気を利かせてくれて。
でも、そのことを説明してなかった。

「咲は学校の宿題があるからって、みんなとは別の部屋を用意してもらったんだよ」

なんて答えようか迷っていると、用意してくれた張本人が代わりに答えてくれた。

「宿題か。大変だな」

吏くんが他人事のように言うのは、うちのクラスでは、ゴールデンウィークに宿題を出されていないから。

だから、簡単に信じてくれて、さらには哀れみの目を向けてきた。
同情してくれているみたいだけど、ごめんなさい。わたしも宿題ないです。

そんな話をしながら、食堂に向かった。


食堂に着くなり、吏くんが「げっ」と声をもらした。
なぜなら、食堂には歌劇部の子たちがいたから。

「勇劇部だー!」

歌劇部の子たちが、鴻上くんたちを目ざとくロックオン。
吏くんが逃げる前にすばやく取り囲み、そして……。

──ドンッ。うわっ!

彼女たちの視野に入っていないわたしは、押しのけられて転んでしまった。
すさまじい力……。ゾウの群れが通ったのかと思っちゃった。