廊下を引き返していく鴻上くんが、なにかを思い出したようにふり返った。

「今度、俺にもひざまくらして」
「えっ?」
「そんなに安眠できるなら、俺も咲といっしょに寝たいな」

なっ……!
驚きすぎて、言葉を失った。

だだだだって、まさか鴻上くんが、そんなことを言うなんて……。
聞きまちがい、じゃないよね。

どういうつもりで、いっしょに寝たいだなんて言ったんだろう。
もしかして、鴻上くんも睡眠の質が悪いとか?

「……っ」

なにか答えなきゃなのに、なんて言葉を返したらいいのかわからなくて、パクパクと口だけが動く。

いいよって言うのは、なんかはずかしいし。
やだって言うと、傷つけちゃいそうだし。
うぅ、なんて答えれば……。

必死に正解をしぼり出そうとしていると、鴻上くんが困ったように笑った。

「なーんてね。困らせてごめん。また明日!」

えっ……。な、なんだ。冗談か。
それはそうだよ。人気者の鴻上くんが、わたしにそんなことを頼むわけない。

わかってるけど……なんで残念に思ってるんだろう、わたし。