「鳴海が緊張するかよ。こいつはもともと睡眠の質が悪いんだよ」
「あ、そうなんですね」

緊張しないのうらやましいな。

でも、睡眠の質が悪いのもつらい悩みだよね。
人それぞれ悩みはあるんだなぁ。

「ぼく、バッグ持ちますよ!」

二泊三日分の荷物をつめたボストンバッグを持っている、みんな。
バッグを持っているうえに、鳴海くんも抱えるって大変そう。

「お、気が利くな。サンキュー」
「ありがとー」

吏くんと鳴海くんからバッグを受け取る。
けど、鴻上くんは渡してくれなかった。

「俺は大丈夫。ありがとう、咲」
「いいんですか?」

鴻上くんは、平気と言わんばかりに、にこっと笑った。

もしかして、気を使ってくれたのかな。わたしが女子だから。
女の子に重い荷物は持たせられないって。

鴻上くんはそういう人だ。
本当に優しい。

呼び方だって、わたしは「咲也」と呼んでくれてかまわなかったのに、
『咲なら、咲花のほうでも通じるでしょ』
と、咲花の存在も尊重してくれた。

鴻上くんが本来のわたしを見てくれるから、わたしは遠慮なく咲也になりきれるんだ。


「なんだあれ」