「今日は楽しかった?」

だまっているわたしに、鴻上くんがおだやかな声で尋ねてきた。

「楽しかったです」

それは本当。
自分の演技を人に見てもらうのは楽しいんだって、初めて知った。

「楽しめたならよかった。そうやって、楽しいと思える経験を増やしていけば、鵜飼さんは乗り越えられると思うよ」
「楽しい、経験……?」
「学校は、技術だったり歴史だったりを教えてくれるけど、結局は、楽しいと思えるかどうかでしょ」

楽しいと思えるか……。
そうだ。わたしは、お芝居が楽しくて、役者になりたいと思ったんだ。

失敗した経験がトラウマになって忘れていたけど、わたしの原動力は「楽しい」という感情だった。

勇劇部に入ったら、もっとお芝居の楽しさを教えてもらえるのかな。
演技ができるようになったら、もうペケマークをもらわずに済むのかな。

だったら……。

「わたし、勇劇部に入りたいです。勇劇部に入って、自分を変えたい!」

自然と気持ちが声に出た。

これが、わたしの本当の気持ち。
自分の可能性をあきらめるのは、まだ早いよね。