保健室に着くと、保健医の先生が「あらあら」となにやら意味深な笑みを浮かべていて少し恥ずかしかった。

「もうおろして大丈夫だよ」

そう言う私を、彼はじろりと見つめその目は何かを言いたそうだった。「はいはい」と言いながらも思っていたよりも丁寧に降ろされる。

「すみません…ボールにぶつかっちゃって。鼻血だけなので」
へらへらと笑う私に、保健医の先生もとりあえず体育の授業が終わるまでは休んでなさいと指示してくれる。

「ごめんなさいね。私、今から出張があるから保健室少し空けるわね。寝転んでてもいいからね」
優しい言葉に「ありがとうございます」と答え、安堵のため息をつく。

「…星崎くん、なんでまだいるの?」
あれからもう五分ほどは経っているだろう。
さっきから彼は特に話すこともないのにずっとベッドに居座っている。正直、気まずいから帰ってほしい。

「安静にしてなさそうだから見とく。あと、名前でいい」

ピキっと頭にきそうになるがなんとか抑える。
彼が言い訳にサボろうとしているようにしか見えない。それに、苗字呼びの何が悪いのかもわからない。

「えーと…彗くん?鼻血だけだし、大丈夫だよ。それに私の不注意だし、あんな持ち方しなくてもよかったんだけど…」

言いたいことが多すぎて、本音と建前がごちゃごちゃになってしまう。
隣からは「はぁー」とため息が聞こえてくる。なぜ彼がため息をつくのか理解できない。つきたいのはこっちだというのに。

「君付けもいい…ボール、頭もぶつけてるだろ」
そう言って、前髪を軽く持ち上げて私のおでこを見ている。

「ほら、赤い。冷やすものもってくる」

その一連の動作に、ぽかんと口が開いてしまう。
まさか私を持ち上げたのも頭をぶつけていた事を心配してくれていたから?いつ気づいたのだろうか。

そんなことを考えていると、彗が戻ってくる。
保健室の冷蔵庫から冷却パックとタオルを持ってきたらしい。
この人が誰かの手当てをする光景がなんだか面白くて、思わず笑えてしまう。

「ふっ…ふふ…あはは」

駄目だ、耐えきれない。いつもの無気力な彼が、真剣にタオルを巻いている姿は皆が見たら驚く光景だ。

「…何笑ってんだよ」

あ、まただ。ほんの少しだけ口角が上がっている。仮面も…表情も。今までは仮面に変化なんて見えなかったのに。

さっきのバスケの時もそうだった。すぐに戻ってしまったけれど、どういう原理なのだろうか?