花火のように咲く、君の笑顔が見たいから

お母さんの言葉が静かに頭に響く。
私は何を言えばいいのか分からなくなっていた。ただ、心の中で何かが大きく揺れ動いているのを感じる。

お母さんが家を出る…。それは想像もできないようなことだった。これまでの全ての出来事、全てを許せるわけじゃない。それでも家族だからこそ…離れ離れになってしまうのは少し寂しい。

「でもやっぱり、そんなの…」

否定の言葉を口に出そうとして飲み込む。
だって、目の前の決意に満ちたお母さんの表情を見ているとそれが私だけのエゴなんじゃないかって思えてきてしまうから。
それにきっとこれは私が望んだ結果でもあった。きっと何も変わらなければまた繰り返されるかもしれない。
彗は…そのことも考えて話をしてくれていたんだ。

「彗…」

私はか細い声をこぼしながら、自分の拳を強く握りしめた。
感情が溢れそうだったけれどどうしても泣きたくなかった。お母さんが今、こうして自分の弱さを認めて、私のために前に進もうとしている。
その姿が何よりも強く、そして優しく見えたから。

でもやっぱりすこしだけ寂しい。家族なのに、どうしてこんなにも離れてしまうんだろう。

「…っありがとう。お母さんがそう決めたなら、私もちゃんと向き合いたい」

震える声で、それでもしっかりと伝えようとした。
"ごめん"じゃなくて"ありがとう"を。私を愛してくれたからこその決断だって分かってる。

お母さんは私の言葉に目を閉じ、少しだけ微笑んだ。


「ありがとう、想乃。今週中には準備も終えて入院しようと思ってるわ」

「そっか…」
その言葉に、少し胸の奥がきゅっと締めつけられる。お母さんが本当にこの場所からいなくなってしまう、そんな現実味が先程よりも強くなる。

でもそれでも私は前に進むしかない。お母さんも、私も。

「あぁそうだ、想乃…」
お母さんはふと何かを思い出したように口を開いた。
「あの子の名前はなんて言うの？」

「…え？」
突然の質問に一瞬戸惑う。何のことかすぐには分からなかった。

「あの子、って彗のこと？」

「ええ。彗くん…優しい子ね」
お母さんは少しだけ微笑んで、その表情にはいつもとは違う穏やかさがあった。

「大事にしなさい。あの子がいれば、きっと想乃は大丈夫ね」

お母さんの言葉が静かに心に沁み渡る。
今まで気づいていなかった何かが、少しずつ形を成していくのを感じた。
最初こそ無愛想で仮面が変わらない彗が苦手で仕方なかった。けれど話していくうちに、その奥に秘められた優しさがどれだけ大きいかに気づいてしまう。
その度に私は、何度も彼に救われてきた。

優しい、優しい人。本音を伝えられる人。
今だけじゃない。昔にも一度私を救ってくれた人。
彼の笑顔を見るたび、心がきゅうっと締め付けられて…もっと見たくなる。もっと、その笑顔に触れていたい。
胸の中で、あふれるように広がっていく感情。

これが、愛と呼ばれるものなら。

私はきっと…彗のことが、好きなんだ。