歩いていくうちに、徐々に自分の家が見えてくる。たった一日しかいなかっただけなのになぜか懐かしさすら感じてしまう。

少し恐怖を感じている心を落ち着かせて、深呼吸をしてから玄関を開けた。
けれど、家の中は思っていたよりも静かで、いつものような喧嘩の音は聞こえなかった。

「あれ…?」

不思議に思いながらリビングへと足を進めると、お母さんとお父さんが何やら話し合っているのが見えた。
でもどちらの顔もいつものように怒っている様子ではなかった。あまり良くないけれどちらっと仮面を見てみる。

そこに映し出されていたのは不満を表す"青"ではなく切なさや寂しさ表す通常よりも"薄い青"が見えていた。ほんのちょっとの違いだけれど、今まで見てきたのだから間違うはずがない。
私の心配をしてくれていたのだろうか…?

少し躊躇いながらも、声をかけようとした瞬間お母さんが私に気づいた。
目が合った瞬間、反射的にビクッと体が震えてしまう。けれどお母さんは目を見開いて、驚いた様子で「想乃!!」と声を上げてすぐに私の元へと駆け寄ってきた。
お父さんも私が帰ってきたことに気づいたのか、驚いた表情を浮かべている。

お母さんの手は思っていたよりも優しかった。
けれど私は少し心が痛むのを感じながらも、そっとその手を振りほどいた。

「ごめん…話したいことがあるの」
私の声は思ったよりもしっかりしていた。自分でも驚くほどだった。
お母さんの顔には、一瞬驚いた表情が浮かんだけれどすぐに俯いてしまった。いつもならもっと強く感情をぶつけてくるはずなのに、今日はやけに静かだ。

その静けさが余計に私の胸に不安を広げる。
沈黙が続く中、リビングに座っていた父が重い口を開いた。

「…分かった」
お父さんの言葉は短かったけれど、その一言で何かが変わった気がした。
いつもなら厳しい言葉を投げかけて喧嘩が始まるはずなのにさっきから今日に限っては落ち着いている。
それが不思議で、私は戸惑いを感じてしまう。
両親の様子がいつもと違う。
何かが変わっているけれどそれが何かはまだ分からない。。でも、今の私にはその違和感に向き合う余裕はなかった。

このタイミングを逃したら、もう二度と自分の気持ちを話せないような気がしたからだ。