そんなことを考えていると、彗が花火の写真を枕元に置き直し、私に向き直る。

「話戻るけど、今日はとりあえず泊まってけば?今はしんどいだろうし、無理して帰ることない。ゆっくりして色々考えればいい」

その言葉に少し驚く。少ししたら家に帰らなきゃなと思っていたけれどよく考えると、体も心も正直もう限界だった。

「…でも、迷惑じゃない?」
一瞬ためらいながらも、彗の優しい目に引かれて私はついそう尋ねてしまう。

「迷惑だったらとっくに帰してる。心配しなくても、ばあちゃんも何も言わねぇよ」
そう言って彗は肩をすくめてみせた。彼のその気楽な感じが少しだけ私をほっとさせる。

「あぁ、そうだ。風呂入ってくれば?」
彗の声にハッとして、すっかり忘れていたことを思い出す。そういえば家を飛び出してきたままで、全く準備もしていなかった。

「…忘れてた!えっと、借りてもいいかな?」

「いいよ。タオルと着替えは置いておくから、適当に使って」

結局甘えさせてもらいお風呂に入ることにする。
温かい湯が体に染み渡り疲れた体が解されていくようだ。湯気に包まれながら、私はぼんやりと考え込んでいた。彗のことも気になるけれど、今はそれよりもまずは自分のことをどうにかしなくちゃいけない。

家に帰ったら何を言えばいいんだろう?今日あったこと、全部正直に話すべきだろうか。それともまた仮面をかぶって…?

頭の中でいろんな考えが渦巻いて、どれが正しいのかもわからない。ただ、これ以上自分を偽っても、苦しいだけだってことだけははっきり分かっていた。

お風呂を出ると、彗が待っていた。

「そこ座って。髪、乾かさないと風邪引くから」
そう言って彗は手にドライヤーを持ち、私を座らせた。

「ありがと…」
素直に礼を言いながら座ると、彗がドライヤーをかけてくれる。その静かな時間に少しずつ頭の中が落ち着いていくのを感じた。

「…やりたいこと、やればいいよ。家に帰ってどうするかは想乃が決めろ。負けるなよ」

彗のその言葉が、心にじんわりと染みていく。負けるな…か。その短い言葉が、私にとってはすごく大きな意味を持っていた。

「…ありがとう、彗」
髪を乾かしてくれたあとの温かい手が、私の肩にそっと置かれる。そのぬくもりが、私にまた少しだけ、頑張ろうという気持ちを与えてくれる。