ノノを撫でながらふと視線を上げると、彗の枕元に何かが置かれているのが目に入った。
さっき布団をめくった時は気づかなかったけれど、少し薄暗い部屋の中でそれは微かに光を反射している。

「…あれ、何?」
気になって私は彗に尋ねた。

「ん?ああ、これか」
彗は私の視線を追いかけると少し身体を伸ばしてそれを取る。それは、花火の写真だった。
夜空に大きく咲く色とりどりの花火が美しく写し出されている。

「昔、祭り行ったって話したこと覚えてるだろ?そん時の花火の写真だよ」
彗が懐かしそうに写真を見つめながら、静かに語り始めた。以前コンビニで綿あめを買っていた時に話してくれていたことだろう。
そういえばあの時初めて、彗の仮面にひびがあるのを見たのだった。

「小さい頃、親に隠して花火行ったんだよ。あんまり覚えてないんだけど、その時に泣いてる女の子を助けたことがあってさ」
彗がぼんやりと遠い記憶を掘り起こすように話す。
その姿を見つめながら、私の心の中で何かが引っかかる。

「泣いてる女の子?」
気づかずに声に出してしまった私に、彗は少し驚いたようにこちらを見る。

「そう。お祭りの人混みで迷子になったらしくて、めちゃくちゃ泣いてたんだよな。あの泣き虫、今どうしてるんだろうな…」
彗は懐かしそうに、どこか優しい笑みを浮かべた。

その瞬間、私の心が跳ねた。
お祭り、泣いていた女の子、助けてくれた男の子…。全部、昔の私の記憶と重なっていく。もしかして…と思ってしまう。

「あの時…」
気づけば声が震えていた。彗は聞こえなかったようで、私を見る。

「何か言ったか?」
私の中で過去の記憶が鮮やかに蘇っていく。幼い頃、花火大会で迷子になり、泣いていた私。
優しい笑顔を向けて手を差し伸べて助けてくれたのは、あの時の彗なの――?

まだ確信が持てないまま、私は頭の中で彗とあの時の男の子を重ね合わせていた。
優しく手を差し伸べてくれた彼は同じなのに、今の彗はあの頃とどこか違う。
昔は、もっと無邪気で明るい笑顔を見せていた気がする。でも今の彗は、どこか寂しげな瞳で変わらない仮面を被り続けている。

何が彼を変えたのだろう?その間に、彗に何があったんだろう?
ふと、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
優しさは変わらなくても、彗の中にどれだけの痛みや孤独が隠されているんだろう…。そのことを考えると、ますます彼のことが気になって仕方がなかった。

「…ううん、なんでもない!」
震える声を押し殺し、私は彗を見つめた。
今はまだ何も言うべきじゃない気がした。彼に気づいたことを伝えるのはもう少し後でいい。
今はただ、この穏やかな時間を壊したくなかった。

彗は私の様子に気付いていないようで再び花火の写真を見つめていた。
その沈黙の中、私は胸の中に生まれた静かな疑問とまだ知らない彗の過去に思いを巡らせてしまう。