気が付けば、思っていたよりも時間が立っていた。
泣き疲れた私の目は腫れてしまって涙はもう出てこない。

静かになった部屋の中、彗はずっと何も言わずに私のそばにいてくれていた。
呼吸が落ち着いてくると、なんだか心の中にあった重たいものが少しだけ軽くなった気がした。こんなに泣いたのはいつぶりだろうか…。

「…泣きすぎたかも」
少し掠れた声でそう呟くと彗はただ軽く頷くだけだった。でもその沈黙が今は何よりも心地よい。
今更になって、ふとノノやプリンが見当たらないことに気付く。私の様子に気付いたのか彗が口を開いた。

「猫ならばぁちゃんとこ。ノノはここにいるけどな」
そう言って布団をめくるとそこには丸まって寝ているノノがいた。以前彗の家に行った時もこんなことがあった気がする。

「全然気付かなかった…!」
布団をめくられて目を覚ましたかのかノノがむくりと起き上がった。私に気付くとこっちを向いてじーっと私を見つめている。
私も負けじと目を逸らさず見つめていると、急に飛び上がっていつの間にかノノが私の膝の上に乗っていた。

ふわふわした感触に癒されながら、私はしばらくそのまま膝の上でくつろぐノノを見つめていた。いつもは近づくと威嚇されてたのに、今はこうして私に寄り添ってくれるのが不思議で、なんだか嬉しくなる。

「前まで私のこと威嚇してたのに!なんで?」
私は少し驚いて彗に聞くと、彼はふっと笑って肩をすくめた。

「ふ…ノノなりに慰めてんだろ」
その言葉に、自然と私も笑みがこぼれる。

彗の軽い言葉とノノの温もりに、少し気が楽になるのを感じる。泣きすぎて疲れたせいか、さっきまでのことが遠い昔のように思えてくる。

「…なんか、不思議だよね」
ぽつりとそう呟くと、彗が静かにこちらを見る。

「何が?」
「こうしてただ座ってるだけなのに、なんだか落ち着くんだよね…」
自分でも驚くくらい自然に言葉が出てきた。彗と一緒にいると、無理に何かを言わなくても、無言のままでも心が安らいでいく。

「お前が泣きすぎたからだろ」
彗が淡々と言うその言葉には、どこか優しさが込められていた。私はクスッと笑いながら、膝の上のノノを撫で続ける。

「…うん、そうかもね」
本当は、それだけじゃないんだと思う。彗がずっと側にいてくれたから、私の心が少しずつ安らいでいくのを感じているんだ。でも、それを言葉にするのは少し恥ずかしくて私はただ小さく頷くにとどめた。